中国「ダブルイレブン」開始から15年、イベント性は希釈化
中国の「ダブルイレブン」と言われる大規模な商戦が今年も開催された。ただ、かつてほどの盛況ぶりではなくなった。背景にはイベント性の希釈化や消費モデルの変化などがある。
■「独身の日」から始まった「ダブルイレブン」
「ダブルイレブン」が始まったのは2009年。11月11日を大型セールの日にした火付け役はアリババ・グループ。10月の国慶節、12月のクリスマスといったイベントの月に挟まれている11月の売上押し上げ効果を狙って1が4つ並ぶ11月11日を当初は「独身の日(中国語は光棍節)」と銘打ち、大規模なセールを開催した。
■EC成長とともに「ダブルイレブン」取引額爆発的に増加
折しも、2000年代後半から2010年代前半にかけては中国の電子商取引(EC)が急成長した時期。インターネットプレーヤーは新浪(SINA)、搜狐(Sohu)、網易(NetEase)の3巨頭が支配していたポータル時代から、百度(Baidu)、アリババ、テンセントのBATの時代へと変化を遂げた時期でもある。
オンラインショッピングユーザーは2007年の約4,600万人から2010年に約1億6,000万人、2014年に約3億6000万人に増加。EC取引額は2009年の約3兆6,700億元から2015年に約18兆元に伸びている。
これに伴い、「独身の日」のオンラインプラットフォームの取引額は急増した。調査会社の艾瑞諮詢(アイリサーチ)によると、取引総額は2009年は約5,200万元、2010年は約9億3,600万元、2011年は約52億元、2012年は約191億元、2013年は約350億元、2014年は約805億元、2015年には1230億元、2016年は約1770億元、2017年は約2954億元、2018年は約3,953億元。
世界最大規模の商戦になり、呼称も、対象が限定される「独身の日」から「ダブルイレブン(中国語は双十一)」に変わり、売り手側の参加企業も大幅に増加した。
■「成熟期」に入り消費者も理性的に
無論、取引総額が拡大し、一定の規模に達すれば、伸び率は鈍化していくもの。10年が経過した2018年以降は「成熟期」に入り、前出のアイリサーチによると、取引総額の前年比伸び率は2018年が33%、2019年が52%、2020年が43%、2021年が12%だった。
こうした中、2022年以降は京東(JD)、アリババ傘下の淘天集団といった大手プラットフォーム企業が「ダブルイレブン」の取引総額の公表を取りやめ。両社は今年も取引総額を公表せず、ユーザー数やライブコマースの視聴者数などのデータの公表にとどまっている。アリババグループ全体の取引額については市場では「前年比で1~3%増だった」との予想が出ている。
取引の伸び鈍化は、比較対象となる基数の問題だけではなく、構造的な変化も関係している。その一つがイベント性の希釈化だ。現在は京東が6月18日を商戦日として6月にも大型セールが開催されるほか、何らかのセールが頻繁に開催され、「ダブルイレブン」の希少性は薄れている。
経済成長に伴い消費行動も変化している。中国メディアが「ダブルイレブン」前に18~40歳の約800人を対象に実施した調査では、今年の消費について「必需品を少し買うだけで、理性のある買い物をする」との回答が57%に達した。一方、「セールを機に様々なモノを買う」との回答は20%程度。「節約のために買わない」との回答も7%あったという。
当初は在庫整理を目的とする売り手が少なくなかったが、取引総額の急増に伴い注文に対して生産が追い付かないなどの問題も出てきており、売り手サイドも「ダブルイレブン」による販促の持続可能性や収益性などに対して疑問を呈する声も上がってきた。
一定の規模に達し、成長率も鈍化する傾向にある中国経済。「モノ」から「コト」への消費にシフトするなど消費者の行動も変化し、値下げによる販促イベントもかつてほどの消費盛り上げ効果は期待できない。多様化する消費者のニーズに対応するための戦略が問われている。