「一帯一路」構想の過去10年の成果~元上海協力機構事務局長のラッシード・アリモフ氏

「一帯一路」構想が提起されてから10年が経過した。 この10年間、「一帯一路」構想は関連国にどのような発展のチャンスをもたらしたか? なぜ「一帯一路」構想は人々の心に根付いたのか?
タジキスタンの元駐中国大使で上海協力機構(SCO)事務局長を務めていたラッシード・アリモフ氏は、現代中国の近代化の道筋、「一帯一路」構想の世界的意義に関する本を執筆。2023年6月に「中国図書賞特別貢献賞」を受賞した経歴を持つアリモフ氏は中国新聞社のインタビューに応じ、「一帯一路」構想の過去10年間の成果について語った。

中国新聞社:「一帯一路」構想が提起されてから10年、関連国にどのような発展のチャンスをもたらしたか?

アリモフ氏:過去10年の「一帯一路」構想の実績は、この構想が世界的な影響力を持ち、画期的な意義を持つことを示している。 「一帯一路」を構築するうえで生み出された協力モデルは魅力的で、関係国の経済発展を後押ししている。目下、150以上の国、30の国際機関が「一帯一路」構想に参加しており、国連加盟国の80%近くが構想を支持・推進している。 これらの数字は、「一帯一路」構想の理念が人々の心に根付いていることを示しているといえるのではないか。

10年前の2013年、習近平国家主席がカザフスタンとインドネシアを訪問した際、「シルクロード経済ベルト(陸のシルクロード:一帯)」と「21世紀海上シルクロード(海のシルクロード:一路)」の構想を打ち出した。 これが所謂「一帯一路」構想だ。翌2014年、習主席はタジキスタンを訪問。タジキスタンは世界で初めて中国と 「一帯一路」構想を共同推進する国として中国と 「シルクロード経済ベルト共同建設に関する覚書」を締結した。

この10年で「一帯一路」構想構築のうえで重要な課題の一つである交通インフラの整備を通じた輸送網の強化はほぼ解決した。 例えば、中央アジアでは、現在すべての国が鉄道・道路網を通じて中国とつながっている。 中国の列車も中央アジアを通過し、ヨーロッパに到着する。


交通インフラ連結の実現にあたっては、高所作業やトンネル建設などで多くの人材や資金が必要となり、非常に複雑な問題が絡んでいるため、克服すべき課題が多い。しかし、これら課題は中国と中央アジア諸国の協力によって解決された。つまり、山や川は障害物でなくなり、交通インフラの連結による輸送網の整備によって国や人々の結びつきが強化されたのである。

「一帯一路」構想により、中央アジアは孤立した「内陸国」から脱却し、沿海都市への物資輸送力が増強した。江蘇省の連雲港は現在、中央アジア諸国にとって重要な窓口で、中央アジア諸国がアジア・太平洋エリアの貿易で独自の発展機会を与えられている。 また、カザフスタン、ロシアを経由してヨーロッパに至る輸送ルートは、中国とヨーロッパの貿易を加速させている。


中国新聞社:「一帯一路」構想の下、中国とタジキスタンはどの分野で協力し、どのような成果があったか?

アリモフ氏:前述の通り、タジキスタンは世界で初めて中国とシルクロード経済ベルトの構築に関する覚書に調印した国だ。

タジキスタンの国土の約93パーセントは山岳地帯のため、交通インフラの整備は重要課題である。 過去10年、中国政府の強力な支援の下、タジキスタンでは約2000キロの道路建設プロジェクトが成功している。道路建設計画は現在も続いており、カシュガルからタジキスタン経由でアフガニスタン国境までを結ぶ道路建設などの計画がある。


交通インフラプロジェクトに加え、両国は工業分野でも大規模なプロジェクトで協力している。現在、タジキスタンでは鉱物資源開発関連で中国のプロジェクト14件が進行中だ。 中国の鉱業技術の支援により、タジキスタンでは金、銀、その他の鉱物資源の開発が進んでいる。

タジキスタンのような山岳国にとって、工業分野の発展は重要だ。 タジキスタンは鉱物資源が豊富で、約20種類のレアアース(希土類金属)を有している。 このため、タジキスタンの天然資源開発への中国企業の参画など、今後も両国の協力余地は大きいと期待している。

協力方法の一つとしては、合弁企業が挙げられよう。合弁企業はタジキスタンの工業発展に新技術をもたらすことが可能で、タジキスタンは国有・民営を問わず中国企業の参入に良好な条件を提供している。

農業分野でのタジキスタンと中国の協力も、大きな可能性を秘めている。中国はタジキスタンからの農産品輸入に関心が高く、対象品目も綿花から果物、野菜、その他の食品に至るまで多岐にわたる。

今年5月に開催された「中国・中央アジアサミット」で、双方は30近くの二国間文書に調印し、その大部分は経済、貿易、工業分野での協力に関するものだった。調印された協定は、両国間の貿易発展に多くのチャンスを提供するものだ。 以上のような点を踏まえ、タジキスタンにとって「一帯一路」構想は極めて現実的な意義があり重要で、雇用創出や社会問題の解決にも密接に関係しているといえる。

例えば、塔中矿业股份有限公司(Tajikistan-China Mining)が建設している新工場は、中国政府の支援を得ており、4,000人の雇用創出が見込まれている。 「一帯一路」の共同建設への参加という背景があるからこそ、このような大規模な企業の進出が実現されているのである。

中国新聞社:タジキスタンでは中国語学習が非常に盛んだ。「一帯一路」構想は中国とタジキスタンの民間交流をどのように促進しているか?

アリモフ氏:タジキスタンと中国はシルクロードの時代から交流があり、民間協力も非常に重要な分野である。 「一帯一路」構想の下での民間交流・協力は、両国の文化面での相互理解を促進し、人と人との交流を促進する上で非常に意義深いものだ。

タジキスタンにおける中国語ブームは、「一帯一路」構想によってもたらされた雇用創出などに関係している。中国企業で働くことを視野に入れて、中国語を学ぶ若者は少なくない。

タジキスタンにある2つの孔子学院は、多くの中国語人材を輩出してきた。 そのうちの一つの孔子学院は、鉱業・工業分野に携わる若者を専門に訓練する役割を担い、数学や工学、関連の専門用語に重点を置いている。


孔子学院だけでなく、「魯班工作室」もタジキスタンの中国専門人材を育成してきた。 同工作室は言葉だけでなく、中国語を話す環境の中でそれぞれの分野の専門家を育成。中国の新しい技術に触れ、新しい設備のメンテナンスなどの技術も習得できる。

また現在約35,000人のタジキスタンの学生が海外留学しているが、そのうちの8人に1人に当たる4,000人以上のタジキスタンの学生が中国で教育を受けている。中国への留学者数は2005年の200倍にもなった計算だ。タジキスタンでは中国の学位が有用であるため、中国への留学生が増えている。

中国が「一帯一路」共同建設国と民間分野での交流・協力を推進し続けたことも、中国語を学ぶ人や中国に留学する人が増えた要因だ。そしてこうしたことが、共同建設国の技術革新を後押ししている側面もある。


中国新聞社:西側諸国の「一帯一路」に対する誤解や誤認についてどう思うか?

アリモフ氏:欧米のジャーナリストや政治家は、「一帯一路」構想が一部の中央アジア諸国に損害を与えていると主張している。 これらを主張している人が言う「債務の罠」は存在し得なく、事実に基づいていない。

第一に、中国が借款を強要したことはない。 借款を申請する国々は自発的に申請しており、中国との協力の強化・拡大を望んでいる。 中国は、申請国に融資を行う前に、非常に厳格な審査も実施している。

第二に、中国が提供するのは長期低利融資であり、基本的には世界銀行や他の国際金融機関が提供する融資に性質が近い。

第三に、中国側は融資だけでなく、申請者の要望に応じて融資の一部を人道支援として配分している。 つまり、融資総額の20~30%が人道支援に充てられる。

EUや米国も中央アジア開発の新戦略を策定しているが、「一帯一路」構想のような成果は見られない。我々は欧米の中傷に対して冷静かつ慎重に対応し、構想を支持し続ける必要がある。 10年にわたる発展が目覚ましい成果を示していることこそが何よりも重要である。


ラッシード・アリモフ氏プロフィール
タジキスタン共和国大統領補佐官、タジキスタン共和国外務大臣、タジキスタン共和国国連常駐代表、タジキスタン共和国駐中国特命全権大使、上海協力機構事務局長などを歴任。 現代中国の近代化への道筋の解釈や「一帯一路」構想の世界的意義に関する学術書を執筆。「中国図書特別貢献賞」を受賞した。

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