中国の地方政府はなぜ「援助の手」なのか、経済学者が語る

    
 北京6日発中国新聞社電は「なぜ中国の地方政府が演じているのは『援助の手』なのか」と題する周黎安北京大学光華管理学院教授・副院長の論文を配信した。内容次の通り。
 国際的に有名な経済学者張五常〈スティーヴン・チュング〉氏は一つの有名な問題を提起したことがある。こんなに多くのマイナス要因の下で、中国の高度成長はこんなに長く続いた。われわれが見ている経済の奇跡が起きたのはいったい中国のどこが正しかったのか、と。


 この問題に答えるには、「国家の能力」に言及する必要がある。筆者は、われわれが「国家の能力」について考察する時、仕事をする能力は一つの面で、もう一つの面に、仕事をすることへの刺激〈インセンティブ〉、仕事を正しくやり、かつ正しい仕事をやれるかどうかがあるかもしれないと考える。
 1990年代から、経済学者は中ロの経済転換の比較に大いに注目してきた。アンドレ・シュライファーらは、大変興味深い観察の視点を打ち出している。即ち、ロシアの地方政府が演じている役柄はどちらかといえば「略奪の手」ーー民間企業に対し、政府は助けるのではなくて、それをかく乱し、その権利を奪い、その財産をかすめ取るーーである。これに対して、中国の地方政府は「援助の手」の役柄をより多く演じている。


 ◇「官界+市場」
 なぜ中国の地方政府は「援助の手」であって、「略奪の手」ではないのか。われわれは新しい枠組みで説明する必要があり、それは単純に「官界+市場」とまとめることができる。
 筆者から見て、中国の最も興味深い現象は、官界競争と市場競争という二つのレベルの競争の存在ではなく、真ん中の「+」である。


 「+」の意味は、一方で、地方官の業績考課が地元の経済発展如何に依存しており、従って彼らの官界競争の運命は管轄地域内の企業が市場における競争で生み出す生産額、税収および雇用によって決まることに現れている。他方で、表面的には二つの地方の企業が市場で競争しているように見えるが、実際背後にいるのはそれらの競争の行方に強い関心をもつ地方の役人であり、これらの地方役人はできうる限り、行政、財政、金融などの資源を動員して、地元企業が少しでも市場競争に勝つよう援助している。だから、「+」は一種の二重の埋め込み〈ダブルエンベデッドネス〉、一種の中国の特色ある政治経済相互作用〈インタラクション〉のモデルなのである。

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 こうした双市場競争の体制は何をもたらしたか。先に直観的な結果について論じよう。
 まず、二つの管轄地域の競争は、管轄地域内の地方役人と地方企業間の密接な協力を助けて、一つの「政経共同体」へと発展させる。片や実績のため片や業績のためで、企業の業績はまさに役人の実績でもあり、逆に役人も実績を上げて企業の業績に反哺することができる。そしてそのことは地方役人と地方企業が連携して「政経共同体」や利益連鎖〈チェーン〉を作り上げるためのカギである。だから、中国のこうした「政治チャンピオンシップ」とそれから派生する「官界+市場」のモデルは実質的に地域の成長性同盟の形成を助けているのである。


 次に、管轄地域の間で二つの「政経共同体」が互いに競争する。政府・企業協力だけならば、政府・企業の共謀、権力と金銭の取引、利益混合に変わる可能性が強い。しかし中国では、管轄地域内に政府・企業協力が存在するだけでなく、管轄地域間に激しい競争が存在し、最終的に地方役人と地方企業間の協力の性格と効果を造り上げて、それが純粋な共謀、腐敗に向かいまたは狭い利益の虜になることがないようにしている。


 従って、「官界+市場」は大変興味深い二重の競争の仕組みーー政治家の間、企業家の間にそれぞれの競争が存在し、政治競争もあれば、経済競争もあるーーなのである。同時に、管轄地域内で非常に緊密な協力もある。この仕組み下では、競争の中に協力があり、協力の中に競争がある。これは中国の政治経済体制によって形成された独特な特色をもつ現象だ。

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 ◇特殊な刺激と制約の仕組み
 中国のこうした双市場競争体制はどんな結果をもたらしたか。プラス面から言えば、筆者は三つあると考える。
 第一、「官界+市場」体制は地方の役人に地域経済の発展を図る十分な刺激を与えた。大多数の発展途上国が経済の持続的成長を維持できない一つのカギとなる原因は、これら諸国の政府が「有能な政府」の役柄を演じておらず、有効な刺激がないことにほかならない。ダブル競争体制の下で、中国の地方政府は確かにやるべき多くの仕事をやった。だから、筆者はこの役割を「仕事を正しくやる」と呼んでいる。しかもこれは市場の失敗を克服することの重要な側面でもある。


 第二、「官界+市場」は役人の権力のわがまま、専断および「略奪の手」を制限するのに役立った。ポジティブなインセンティブだけでは不十分だ。地方政府の手中には多くの自由裁量権があるからだ。これらの自由裁量権を政府がうまく使えば、仕事を成就できる。うまく使わなければ、合法的な名目、即ちいわゆる「略奪の手」の役柄によって、当然仕事をだめにすることになる。


 しかし、「官界+市場」のモデルでは、こうした状況が生じる確率が大きく抑制される。市場競争には要素市場の競争が含まれ、物質資本と人的資本の地域を越えた移動も含まれるからだ。企業はある地方の投資環境が良くないとわかれば、別の地方に行き、競争地域に行くことさえある。こうして、たとえわがまま、専断な地方役人でも、地元の経済実績を大きくし、政治市場の競争に勝つためには、自分のわがまま・専断を抑制せざるをえない。できるだけ「略奪の手」の役柄を演じないで、「援助の手」の役柄を演じようとする。筆者はこれを「政府が悪い仕事をするのを防止する」役割と呼んでいる。


 第三、「官界+市場」体制はまた、管轄地域内の政府・企業協力のための重要な情報フィードバックと試行錯誤の機会を提供した。地域間の二重競争は管轄地域内の企業家と政治家の緊密な協力を奨励している。しかしどうすればこうした「政府・企業協力」の結果はよいものになる、と保証できるだろうか。「官界+市場」の体制、とりわけ「市場」の存在があれば、「政府・企業協力」は最終的にすべて市場で検証を受けることになり、検証すればすぐにわかる。これは政府・企業協力が「正しい仕事をする」のを保証している。


 「官界+市場」体制は管轄地域内の政治の企業家精神と市場の企業家精神の結合を促し、同時に一つの地域の政治エリートと経済エリートの結合を実現しており、彼らは互いに協力し、互いに補完して、その地域の市場競争力を高めている。これは「官界+市場」体制がもたらす重要な結果である。


 「官界+市場」理論はわれわれが経済発展過程における政府と市場の関係、および政府と企業の相互作用〈インタラクション〉の背後にある仕組みの条件を改めて認識するのに役立つ。経済競争の角度から見ると、「官界+市場」モデルは中国のそれぞれの管轄地域の経済を数多くの「小国経済」に変えるのに相当しており、国家経済は「小国経済」の連合体〈アライアンス〉となる。連合体内の「小国経済」は相互に市場を開放、相互に競争し、連合体は同時にまた対外開放を進めて、より大きな「国際市場」の中に統合されている。

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 「官界+市場」モデルには強い中国色があるが、しかし「官界+市場」理論に含まれた核心的分析要素ーー内部の政府の刺激(利益互換性)、外部の市場の制約〈コンストレイント〉と情報フィードバックの仕組みが政府と市場の関係および政府・企業関係の良性度を決定するーーには、これを普及させる普遍的な意義がある。
 歴史的視点から見ると、「官界+市場」は数十年の模索と進化を経て、中国の歴史上最も悠久な官僚政治の伝統を西側諸国の悠久な市場化、グローバル化の伝統と結び付け、偉大な創造的融合と制度刷新を実現した。

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 しかも、市場化、グローバル化はさらに官界の競争を改良、活性化、誘導した。逆に、官界の競争はまた、市場競争に力を付与し、政府と企業の相互補完を実現している。
 この一組の制度「連打」〈コンビネーションブロウ〉はかなりの意味において、政府と市場の二重の機能不全を克服し、過去40年の中国経済の持続的高度成長のカギとなる制度的基礎を築いた。他のいかなる国でも、この二種類の競争メカニズムがこんなに緊密に結合している例を見出すのは難しい。無論、こうした二重の競争の体制は完璧なものではなく、限界と弱点もあり、今後たえず改革し、完全にしていく必要がある。(翻訳:中国通信=東京)

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