世界的な存在感をみせる潮州料理――無形文化遺産・潮州料理の継承者 方樹光氏に聞く

潮の満ち引きあるところに潮州人あり、潮州人あるところに潮州料理あり。国内外問わず世界で人気を博する潮州料理は中国四大料理のひとつ広東料理の代表格であり、1000年の歴史を有する。その料理技術は国家無形文化遺産の代表リストにも掲げられるほどだ。潮州市は近年、潮州料理のセントラルキッチン産業を積極的に推進しており、その市場体系を確立させることで潮州料理の次なる発展を狙っている。潮州料理は中国国内外の飲食文化交流において今日までどのように受け継がれてきたのだろうか。無形文化遺産の潮州料理継承者である方樹光(ファン・シューグアン)氏がこのほど独自取材に応じ解説してくれた。

中国新聞社・記者/方偉彬 翻訳/神部明果

記者:潮州料理の発展の歴史について教えてください。中国の他の料理と比較してどのような特徴がありますか。

方樹光:文献上の記載や古詩歌の描写によれば潮州料理は現時点で唐代にまでさかのぼることが可能で1000年以上の歴史があり、明清時代に完成の域に達し全盛期を迎えました。近代とりわけ改革開放後は中国の急速な経済発展に伴い、交通利便性が増し、全国の食材が速やかに潮州地区に流れ込むようになりました。これが非常に大きな成長の余地を潮州料理にもたらしたのです。

 潮州料理は中国の他の料理と比べてあっさりとしており、食材そのものの味が生きています。また、調理の過程で海鮮を多く使用します。大きな特徴をいくつかあげるならば、まず「醤碟」と呼ばれるタレの種類が非常に豊富で、料理ごとに異なるタレを添え非常にバラエティーに富んでいるということがあります。さらに「野菜料理の調理に肉を使用する」ことも大きな特徴です。これは野菜料理の調理過程で魚や肉などを加え、調理後にそれらの食材を取り除くもので、こうした料理を口にすると魚や肉の風味が感じられます。最後に趣向の凝らされた料理が多いことです。これは、ごく一般的な食材にさまざまな調理法を加え美食に仕立てる潮州料理の特色をよく表しています。例えば、有名な潮州料理である「護国菜」はサツマイモの葉で作った羹(あつもの)ですが、料理人は調理した白と緑の2色の羹をスプーンで皿に注ぐ際に太極図を描く必要があり、調理の腕だけでなくスプーンを操る器用さも試されます。総じていえば、潮州料理は高級かつ繊細で 究極の高尚性と大衆性を兼ね備えており、国内外の美食家たちに好まれています。

護国菜。撮影/中国新聞社・記者 陳楚紅

記者:潮州料理が中国さらには世界の料理文化において重要なポジションを占めている理由は何ですか。潮州料理は潮州人および潮汕文化とどういった共通点がありますか。

方樹光:潮州料理が世界に名を馳せたのは、中原文化、閩南文化、本土文化をひとつに融合させ独自の料理体系を完成させているからだと考えます。これをベースに大胆な革新を図り、他の料理体系および料理の優れた点を吸収して今日まで豊かな発展を続けてきました。

 「どんな人にもマッチする」といわれますが、その点については前述のタレがよい例です。潮州料理は本来あっさりしており薄味です。それが基本なのですが、他地域の人々のなかには物足りないと感じる人もいるでしょう。しかし、バラエティー豊かなタレを自由自在に組み合わせることで酸味、甘味、苦味、辛味を問わずさまざまな味のバリエーションを生み出すことができるのです。

写真/取材先提供

 潮州人は頭の回転が速く手先が器用で仕事ぶりが繊細ですが、これが潮州料理にも現れています。潮州料理に手の込んだ料理が多いのがその証拠です。たとえ街角の軽食であっても見た目が美しいことは欠かせません。一般市民が作る鼠殻粿〔ハハコグサを使った餅のような伝統的軽食〕、萝卜糕〔大根餅〕、笋粿〔タケノコを使った蒸し餃子風の食品〕、鴨母捻〔もち米の団子〕などの料理は見た目と味の両方に趣向が凝らされています。

記者:潮州出身者〔以下「潮州人」〕は「洋の東西を行き交い、商いは南北に広がる」との言葉があるとおり、潮州人あるところに潮州料理ありと言われています。潮州人は世界中に足跡を残していますが、潮州と西洋の飲食文化においてはどのような相互交流が生まれたのでしょうか。潮州料理は海外でどのように受け継がれ、また広がりをみせていますか。

方樹光:コロナ禍前までは頻繁に交流訪問のため海外に赴いていましたが、潮州料理は海外、特に東南アジア一帯で素晴らしい発展を遂げていることに気づかされました。初期の潮州人は「紅頭船」と呼ばれる船首が朱色に塗られた木製の船で大海原に繰り出し海外に拠点を築きましたが、その後年齢を重ねるごとに故郷の味を恋しく思うようになりました。彼らは潮州料理の調理技術を現地に持ち込んだだけでなく、その土地の風土や人情を融合させながら創造を加えていき、これが潮州料理の継承と発展にきわめて大きな役割を果たしました。

写真/取材先提供

 タイ、シンガポールには潮州料理の荷包鶏〔鶏肉の包み焼き〕、干炸果肉〔肉や野菜に粉をまぶし揚げ焼きにした一口大のスナック〕が現在まで残っており、なかには進化を遂げているものもあります。タイの飲食においてはレモンが重要な食材となっていますが、潮州系 タイ人はレモンを潮州料理にも持ち込み、料理のバラエティーを豊かにしました。味は伝統的な潮州料理とは若干異なっているものの調理技術は変わりません。

 食材の面では、タラはかつて潮州には存在せず、大多数のタラはフランスから輸入されたものです。こうした西洋からもたらされた食材が東洋の調理技術と出会い、潮州料理の人気グルメが誕生しています。

記者:近年、方さんは第一線の料理人から潮州料理の研究や調理技術の伝授へと徐々に業務をシフトされています。潮州料理の人材育成の現状について教えてください。現在、潮州料理の海外での継承や革新を促進するためどのような施策が講じられていますか。

方樹光:潮州市政府はここ10年にわたり潮州料理の人材育成を重視しています。潮州市高級技工学校、韓山師範学院などで潮州料理関連の専攻が開設されたほか、まとまった量の養成拠点も設置されました。また養成プログラムを提供する社会教育機関も存在します。潮州料理の人材は次々と誕生し、今後もっと大きな広がりをみせると確信しています。

 また広東省政府は近年、広東料理調理人プロジェクトを発表しセントラルキッチン(惣菜)事業を大々的に推進しています。これは潮州料理の発展にとっても追い風です。経済発展のスピードは現在非常に速く、テクノロジーは日進月歩で発展し、潮州料理は高級化から産業化に徐々に変化しつつあります。セントラルキッチンは潮州料理をある程度標準化させるため、そうした標準に基づいた料理の大量生産が可能となります。コールドチェーンを通じて国内外に輸送すれば、市場ニーズを満たせるほか潮州料理の影響力も拡大できます。とりわけセントラルキッチンで生産さ れた惣菜を海外の食卓までスピーディーに届けることができれば、外国人が潮州料理や潮州文化を理解するうえでの一助ともなるでしょう。

 当然ながら、惣菜は調理後にコールドチェーンで輸送したとしても味が若干変わってしまいますが、我々は惣菜により潮州料理の影響力を拡大し、テンポの速い現代の若者のライフスタイルに合わせ、彼らが簡単に潮州料理を楽しめるようにしていきたいのです。

 また、惣菜の海外進出で海外の潮州人たちの故郷への美しい思い出が喚起されればと思っています。そして、コロナが終息したあかつきには帰省して出来たて熱々の潮州料理を味わってもらいたいですし、生まれ育った街の変化を実感してもらいたいものです。

【プロフィール】

方樹光(ファン・シューグアン)

無形文化遺産である潮州料理の継承者、潮州市調理協会の副会長、潮州料理国家審査員。潮州の料理人の家に生まれ、名調理師だった父のもとで15歳から料理を学び始める。「人間国宝」とよばれる同氏は潮州料理の調理技術の宣伝と発揚にも積極的にとりくみ、日本、東南アジア、香港などのテレビ局に招かれて解説や調理技術の披露もおこなっている。

撮影/中国新聞社・ 記者 陳楚紅

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