東西問|孫雷:大学の校訓に文化的精神と教育理念がどのように反映されているのか

中新社記者 習海洋 李睍

 大学の校訓は文化的精神と教育理念を総合的に表現したものである。大学の校訓を通して、中国と西洋の大学の運営理念、伝統や価値観の傾向、さらには民族性の形成さえも見てとることができる。

 最古の大学の校訓はどこから生まれたのか。中国と西洋の大学の校訓の特徴とどのような文化的精神と哲学的思想が反映されているのか。このことについて、先ごろ中新社の「東西問」は中国東北大学副学長でマルクス主義学院教授の孫雷氏に独占インタビューを行った。

 インタビューの概要は以下のとおり

 中新社記者:最も古い大学の校訓はどこで生まれたのでしょうか。その校訓は大学にとってどのような意味があるのでしょうか。

 孫雷:西洋の近代型大学の中で、「母なる大学」と呼ばれるボローニャ大学(イタリア)やパリ大学(フランス)は創立当初は明確な校訓がありませんでした。15世紀末から16世紀初めにかけて、オックスフォード大学(1167年創立)とケンブリッジ大学(1209創立)でそれぞれ校章をデザインし使い始めたのが、西洋で最も古い校訓であるとされています。西洋の大学では校訓は「MOTTO」(モットー)と呼ばれていますが、これは簡潔な表現の序文、題銘、座右の銘という意味です。このことからわかるように、モットーは教育発展の必要性から生まれ、古今東西問わず教育の中で重視されています。

 大学は人を教育する場であり、大学のモットー、校風および教師と学生の間でコンセンサスを得る伝統文化は、大学が人を育てるための基本です。モットーのキーポイントは「訓練」であり、人材育成を意味します。その機能は教育するものと教育を受けるものへの指導、正しい方向への導きや監督です。それは、学校における教師や学生の言動を規範化する明示的な文化特性だけでなく、教師や学生の行動や価値観にまで無言で影響を及ぼす暗黙的な文化特性ももっています。

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英国のケンブリッジ大学=中新社 趙偉撮影

 中新社記者:西洋の大学のモットーにどのような文化的精神および哲学的思想が反映されているのでしょうか。

 孫雷:オックスフォード大学とケンブリッジ大学は創立から長い年月を経た15世紀になってから、徐々にそれぞれのモットーである「主はわが光」(Dominus illuminatio mea)、「ここから光と神聖な盃を」(Hinc lucem et pocula sacra)を形成していきました。17世紀から18世紀にかけて、米国のハーバード大学の「真理」(Veritas)、イエール大学の「光と真理」(Lux et veritas)が生まれました。これらの長い歴史のある西洋の大学のモットーが浸透した思想は、最初のオックスフォード大学やケンブリッジ大学と同様に、真の知識や自由の追求、そして強い宗教的背景を持っていることです。

 これは、西欧のルネッサンス、宗教改革や啓蒙運動と密接に関連しています。西洋の大学のモットーが発展する過程、特に中世において、「差別なき愛、人間は神の前では平等である」ことが提唱され、これらの思想概念と価値観は当時の西欧の封建身分制から生まれたものでした。近代になると、啓蒙思想が提唱する「普遍的価値」の影響を受けて、西洋の大学のモットーは本来の自由と博愛の追求に加え、「個人の自由、独立、平等、民主、人権」および関連する「科学、進歩」等の概念も提唱されるようになりました。これは近代の歴史的産物であり、近代資本主義の私有制の産物でもあります。

 中新社記者:中国語の「校訓」という言葉はどのようにして生まれましたか。

 孫雷:中国の校訓は「早発内生」(早期に生まれて内面的に存在)ということができます。古代には実質的な校訓はありましたが、名称はありませんでした。誕生の当初から「道徳教育」の役割を担い、南宋の岳麓書院の院訓は「忠、孝、廉、節」でした。清朝末期に教会系大学が生まれると校訓は名実相伴うようになりました。中国の近代型教会系大学では相次いで校訓が制定された後、「モットー」(校訓)の実態が明らかになり広まりましたが、中国の伝統的な「大学」には「校」「訓」の2字が連なるフレーズがないため、「校訓」という名称はまだ現れませんでした。

 1894年に始まった日清戦争が終わると、教育の先賢たちが日本語を借りて漢字の形で「校訓」(ひらがな:こうくん、koukunと読む)命名しました。よく読むと中国の「校訓」の読み方と似ているのは、日本語の音読み自体が古代中国の長江流域以南の古漢語に由来しているからです。このことから見ると、「校訓」という言葉は輸入品でありながら、中国と深い縁があります。これで、「校訓」という言葉が古代中国の「校訓」および西洋の大学の「モットー」と完璧につながり、校訓の概念と原型の名実相伴い、中国の大学の校訓がより明確になりました。

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中国湖南省長沙市の岳麓書院=中新社 楊華峰記者撮影

 中新社記者:中国の大学の校訓にはどのような特徴があり、どのような文化的精神および哲学的思想が反映されているのでしょうか。

 孫雷:中国の大学の特徴は、歴史的長さ、哲学的深さ、文学的温度、美学的深さの4つの精神的な観点でまとめることができると思います。大学の校訓はこの4つの総合的な表現であり、大学の校訓の精神的な観点が文化的特性を含み、文化的精神および哲学的思想を反映していることを証明しました。

 中国の大学の校訓は中華の優れた伝統文化の影響を深く受けており、形式は中国的文学表現であり、内包は中国的哲学思弁の深さを備えています。例えば、中山大学の「博学、審問、慎思、明弁、篤行」(博く学び、審らかに問い、明らかにわきまえ、篤く行う)は、いずれも堅固な哲学の文化的根底にあるものを支えるものであり、中国の知恵が満ちています。

 その中で、特に注目されるのは中庸の道です。王陽明の「知行合一」は初歩的な視点から分析すると「中庸」になります。何晏の『集解』には「庸は、常なり。中和は常に行う可き道なり」とありますが、いわゆる「心を動かさず、時機をとらえて動く」で感情に流されることなく、中庸の「未発」の状態に入り、時機を逃さず、良識によって行動し、しかも必ず節度を保つ「中節」が伴わなければなりません。これがつまり知識と行動が一致する知(良識)行合一です。中国遼寧省の東北大学の校訓である「自強不息、知行合一」(自強して息まず、知行合一)はこのことをより端的に表しています。東北大学は日本帝国主義の侵略期にも、祖国の滅亡を救い生存をはかろうとしました。1928年、張学良は学生に対して「学生諸君は、志を固め、それぞれ学んだことを生かしてもらいたい。全国の学問に優れた人々もそのようにすることによって、中国を強くすることを願っています」と道を説きました。東北大学の校訓は、知識を行動ととらえ、知識により行動が決定され、知識は行動の出発点であり、行動は知識の最終地点であり、たゆまぬ真理の追求と努力をともに重視する中庸の道において、時機を逃さず、それによって質的な飛躍をはかるというものです。これが伝統的な中庸の道に対する伝承と創造性であり、さらに超越と突破でもあります。

 中新社記者:校訓は教育の理念を抽象的に表したものです。中国と西洋の大学の校訓(モットー)から見える、両者の教育理念の共通点と相違点は何でしょうか。

 孫雷:大学のモットーを通して、中国と西洋の大学の理念、伝統、価値観、さらには民族性の形成まで見えてきます。

 中国の大学の校訓は、道徳と善の原則に基づいています。中国文化は、儒教文化を主体とし、血族を基盤とし、人間の道徳を社会維持の基盤とする道徳的文化であり、必然的に家や国の心情をもって己の任とします。特に「知識」階級が台頭し、「修身斉家治国平天下」(身を修め、家庭を整え、国を治め、天下を平和に導く)により、中国人は民族と国に対する強い責任感と義務感を身につけ、強い生命力と結束力を持ちました。

 例えば、清華大学の校訓「自強不息、厚徳載物」(自強して息まず、厚徳もて物を載す)は、1914年に梁啓超が清華大学で『君子』と題して講演したときに、『易経』の「天行健なり君子は以って自強して息まず、地勢坤なり君子は以って厚徳もて物を載す」を引用して、決してあきらめない闘志と寛大な心をもった人格者であれと清華大学の学生を激励したときの言葉です。

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清華大学校訓「自強不息、厚徳載物」=中新社 徐文東撮影

 対照的に、西洋の大学のモットーは率直に胸中を述べ、真理の追求や自由を渇望するものが多く、しばしば『聖書』から直接引用されています。西洋の大学のモットーの思想的内容は「神霊を重んじる」「神を重んじる」「自治」「自由」から「主知」「真理を求める」「奉仕する」へと進化し、西洋の大学の理念と探究を表現するようになりました。例えば、米国のカルフォルニア州立大学ロサンゼルス校(UCLA)のモットーは、「そこに光あれ」(Fiat Lux)で、神の啓示が真理と知識の源であると主張しています。

 中国と西洋の大学の校訓(モットー)について、中国中央民族大学の校訓「美美与共」(多様性の尊重と調和)を用いて総括します。中国と西洋の大学の教育理念は、和して同ぜず、教育の真の意味は、「培根鋳魂、啓智潤心」(人生の意味に寄り添い進歩を目指す精神を養い知恵を啓き感情のバランスと調和を育むこと)です。新しい時代の中国の高等教育は、中国の特色ある世界一流の大学を建設する過程で、中国の卓越した伝統文化を堅持するだけでなく、世界の大学に対して革新を続け、人々の全面的な発展を実現しなければなりません。(完)

 

孫雷氏略歴

現在、中国の東北大学党委員会常務委員、副学長、マルクス主義学院教授、博士課程指導教員。中国共産主義青年団第14期中央委員会委員候補、政治協商会議瀋陽市第11期委員会委員、政治協商会議瀋陽市第12期、13期、14期委員会委員、常務委員を歴任。主な研究分野は、大学文化、都市文化、大学思想政治教育と管理など。中国教育発展戦略学会思想道徳建設専門委員会副理事長、中国冶金教育学会副理事長、教育部新文科教育研究専門家など多くの学術職を兼任。ここ数年来、『新華文摘』、『中国高等教育』、『東北大学学報』などの学術刊行物及び人民日報、国家管理週刊などの新聞刊行物に60編以上の文章を発表。国家社会科学基金後期助成プロジェクト、教育部の第1陣新文学科研究と改革実践プロジェクト、遼寧省大学思想政治理論課教育改革研究プロジェクトなどの部、省、市級の課題60件以上の研究代表を務める。『中国特色ある社会主義文化自信の論理育成と制度構築』『現代大学制度下の大学文化透視』『大学校訓』『新時代大学キャンパス文化建設概論』などの専門書10部以上を出版した。

【編集:劉歓】

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