生物の多様性を守るために、中国の虞衡制度は私たちに何を教えてくれたのか

―アモイ大学環境・生態学院の李振基教授にインタビュー

国際生物多様性の日が近づいている。今年のスローガンは「すべてのいのちと共にある未来へ」だ。実際、人と自然の調和・共生を促すのは、中国古来の伝統である。早くも数千年前、中国は自然生態の観念を国家管理制度に上昇させ、専門に山林・川・沢を管掌する機構を設立し、政策・法令を制定した。多くの王朝には自然保護の律令があり、それに違反した者には重罰を科していた。虞衡制度は顕著な代表である。


今日、世界的な生物多様性の喪失が加速する傾向に直面して、虞衡制度は私たちに何を教えてくれたのだろうか。中国の古い生態文化からどのように知恵をくみ取り、生態文明を建設すべきだろうか。国家公園・国家レベルの自然保護区審査専門家、厦門大学環境・生態学院教授の李振基氏はこのごろ、中国新聞社の「東西問」の独占インタビューに応じ、これについて解説した。

ここにインタビューの実録の要約を以下に示す:

中国新聞社:生物多様性保護の面で、中国は歴史的にどのような模索と実践を行ってきたのだろうか。


李振基氏:歴史をさかのぼると、中華民族は従来から自然を尊重し、自然を愛しており、5000年以上続く中華文明は豊かな生態文化を育んできた。これは、次のような側面から考えられる。


認知の面では、古代中国は生物多様性に対して深い認識を得ていた。『山海経』、『管子・地員』、『詩経』、『神農本草経』、『水経注』、『淮南子』などの書物には、すでに300種以上の動植物の種類が記録されており、また多くの名山や大河、森林の記述がある。『管子・地員』は、山地の樹木、沼の湿地植物を十分に認識していて、また、弁証法的に自然の法則に従い、人と自然が調和して発展し、各種の野生動物が自由気ままに生活するようにすること—すなわち「鳥獣も安心して生息す、すでにノロジカも居る、また鹿も多い(鳥獣安施、既有麇麃、又且多鹿)」とある。適度な要求と「時をもって発を禁ず」の方式によって天然資源の保護を実現し、永続的な利用の目的を達成することが求められている。

祁連山国立公園の牧草地では、背の低いシカの群れがじゃれ合っていた。中国新聞社の馬銘言記者 撮影

意識の面では、黄老の道家、儒家、仏説と少数民族はいずれも生物多様性保護の一致した見方を持っている。上古時代、夏禹が政権を握っていた時、「春三月には山林に斧を載せず、以て草木の生長を成せ。夏三月には川・沢は網に入らず、以て魚やスッポンの生長を成せ」という禁止令が出されていた。『老子』の中の「人法地、地法天、天法道、道法自然」(「人は地に法り、地は天に法り、天は道に法り、道は自然に法る」)は、自然の法則を宇宙万物と人間世界の最高の法則と見なしている。『論語・述而』の中の「釣(つり)して綱(こう)せず、弋(よく)して宿を射ず」、つまり釣りは水の流れを遮って一網打尽にせず、狩りは夜宿の鳥を射てとらなかった。これは古代人の素朴な生態道徳思想を反映している。『孟子・尽心上』の「親を親しみて民に仁し、民に仁して物を愛す」というのは、自分の同胞だけでなく、様々な動物や植物など自然の生命を大切にすることにまで広げなければならないということだ。唐の時代以来、峨眉山、廬山、鶏足山、岳麓山、雲居山、青城山、武当山など多くの名山に禅寺、道観が建ち、いずれも森林の保護に力を入れてきた。多くの少数民族も神山文化を持っている。


法制度執行の面では、中国では4千年以上前から生物多様性を保護する制度、法令、自然保護制度を執行する機構、つまり「虞衡」制度が出現し始めた。『尚書・尭典』には舜が伯益を「虞」の官職に任命し、朱虎、熊羆を補佐官に任命したことが記述されている。「虞」は中国で世界初の自然保護機関であり、例えば、「沢虞」は湖や湿地の動植物の管理と保護を担当し、「山虞」は山林の野生動植物資源の管理と保護を担当し、「林衡」は林を巡回して森林保護者の森林保護状況を検査し、「川衡」は河川や湖を巡回し、「跡人」は狩猟地域を管理し、狩猟禁止令の執行を監督する。


中国新聞社:虞衡制度とその発展には、どのような歴史的価値と現実的意義があるのだろうか。中国の豊かな生態文化は現在、生態文明を建設し、地球生命共同体を共に建設する上で、どのような啓示があるのだろうか。


李振基氏:『尚書』『史記』などの古文書を見ると、大禹治水当時から中国は全国の山水と物産の調査に着手していた。虞衡制度とその発展は、古来より、中国では比較的完備された生物多様性保護制度が形成され、厳格な法律・法規によって、大面積の森林と野生動物が保護されてきたことを教えてくれる。


虞衡制度も中華伝統文化の伝承と今日の生物多様性保護のために良好な基礎を築いた。中国中原以南の広大な区域は険しい山々で、夏の流刑と移動から、安徽の巣湖、丹江上流、会稽山、徽州、福建、大理などの広大な山間部に巣氏、丹朱の子孫、大禹の子孫などが隠居し、異なる氏族が異なる王朝の文化を伝承した。人口増加、異民族の侵入、絶え間ない戦乱、王朝の交替、水害などの災害にもかかわらず、多くの山間部は桃源郷のように、何百年何千年も大きな衝撃を受けていない。その後の発展の過程で、これらの地域の異なる氏族の文化と主流文化が融合し、中華伝統文化の奥深さを成就した。

福建武夷山。中国新聞社の王東明記者 撮影

中国の伝統的な生態文化は天人合一を強調し、山川と都市の発展を結びつけている。老子や孔子などは天人合一の高さから、生物多様性が人類文明と密接な関係にあることを認識し、保護を強調している。『管子・地員』などは持続可能な利用の角度から、異なる森林の地下水位と土壌の農業発展に対する生態的意義を理解している。森林、樹木、動物を国の資源として保護し、私有化を避けることを提案し、春に植物を生長させ、秋になってから山に入って一部の樹木を伐採し、狩猟の時期も規定している。


中国は昔から山岳の祭祀と保護を重視してきた。崑崙山、軒轅山、泰山、華山など多くの中国の名山・大河は、東方古代国家公園の遺構と言える。近年始まった国家公園システムの建設は、中国の上古以来の虞衡制度の継承といえる。建設の過程では、中国の伝統的な虞衡制度を受け継ぎ、昔のものを今のために役立てることで文化遺産を新しくする必要もあり、また、西方国家公園の管理経験を学ぶことで外国のものを中国のために役立てる必要もある。それらを通じて、生物多様性保護のためにより良い発展を実現すべきである。

雲南省迪慶州維西県雲南キンシコウ国家公園の雲南キンシコウ。中国通信・陳先林 撮影

中国新聞社によると、西側の生態保護理念と制度の発展を比較すると、虞衡制度とその発展はどのような東方の知恵を示しているのだろうか。


李振基氏:西洋では、イエローストーン国立公園などの現代国家公園は発展の過程で無秩序な段階と模索の段階の回り道を経て、段々と整った計画の確立、経営管理、科学研究のモニタリング、観光の発展、解説システム、ボランティアの参加、法律法規などの制度を形成してきた。例えば、アメリカ国立公園管理局の下に計画設計センターがあり、多分野の専門家と学者で構成された保護地の計画設計チームがあり、アメリカのすべての保護地の計画と設立を担当し、開発計画と管理を行う時に保護地の生態環境、自然環境、社会環境などの多方面に破壊をもたらさないようにする。多くの国立公園は社会に向けてボランティアを募集しており、ボランティアは自然資源情報の収集と記録に参加し、国立公園の資源モニタリングプロジェクトに参加し、公衆教育と自然解説に参加することができる。

アメリカのイエローストーン国立公園。中国新聞社の陳文記者 撮影

中国の近代的な国家公園の建設はスタートが遅れているが、生物多様性の保護の面で、古代の虞衡制度は天人合一の知恵の高さを持っていて、森林と希少な動植物を国家資源として保護して、同時に各地の名山寺院道観、村落の宗族の繁栄などと密接に関連して、また厳しい懲罰の手段を持って保証している。まさにトップダウン設計により、人と自然の生命共同体(天人合一)の思想のもと、生物多様性の保護が着実に実行されていることには目を見張るものがある。


もし東西の文化にどんな違いがあるかと言えば、西洋の文化はミドル(ミクロとマクロの中間)とミクロ方面の細部を重視し、一つの型で異なるものをカバーするのに対し、東洋の文化は全体観念を重視し、マクロの面から着手して問題を解决し、中国の異なる地方の実情に基づいて生物多様性を保護する方法を制定する。

2019年4月、オオサンショウウオ566匹が河南省伏牛山国家級自然保護区竜峪湾に放流された。中国通信・楊正華 撮影

中国新聞社:現在、世界の生物多様性はどのような課題に直面しているのだろうか。課題に対応するため、われわれはどのように共通認識を結集し、手を携えて行動し、より公正で合理的で、各自が実行可能な世界的な生物多様性保護システムを建設するのか。


李振基氏:工業文明に入って以来、世界の生物多様性は森林伐採、世界的な変化、希少種の貿易など多くの挑戦に直面している。私たちは世界が生命共同体であることを意識し、原始林の伐採を避け、希少動植物の貿易を避け、戦争を避け、持続不可能な漁獲などを避けるべきである。


人間と自然は生命共同体である。現在、西洋の思考は二元的な主客二分思考であり、人が自然を保護しているか、人が自然を利用している思考である。東方虞衡制度は人間と自然は生命共同体であるという考え方を体現している。それが天人合一の思想であり、一体・一元の思想であり、地球はガイアの女神と同じようなものなのである。森林の中の一本一本の木々は人体に生えている一つ一つの毛のようであり、河川は血液のようである。大海へ戻るあまたの川は人体の静脈をめぐる血液のごとく、降水は人体のあらゆる部位に新鮮な血液を送り出す動脈のようなものだ。


中国の道教『太平経』には「泉は地の血、石は地の骨なり、良土は地の肉なり」という認識があり、多くの民族も同様の見解を持っている。


地球全体は人類運命共同体であり、複雑な大生態系である。生態系にはさまざまな生物の直接的・間接的な影響が絡み合っており、それぞれの国が独善的になることはできない。だから、大面積の森林伐採、動植物の取引、戦争、汚染、狩猟などはこの大きな生態系を傷つけ、傷ついた地球は逆に地球上のすべての生命に影響を及ぼす。

2021年10月11日、「生物多様性条約」第15回締約国会議が雲南省昆明市で開幕した。中国通信社の劉冉陽記者 撮影

中国が現代の生物多様性保護に参与した期間は短いが、知らず知らずの伝統的な東方の知恵があるため、中国は1992年に『生物多様性条約』に加入して以来、大陸の生物多様性保護の成果を累加させただけでなく、すでに国際的な生物多様性保護の舞台でも重要な役割を担っている。

(翻訳:華僑大学外国語学院 姚文清 王 静)

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