中国横店とハリウッド、ボリウッドはどのようにして相互理解をするのか
映画・テレビ文化産業は、「信頼され、愛され、尊敬される中国」という姿を示すのに重要な役割を果たしており、中国浙江省金華東陽市の横店(横店影視城)はその代表的例です。北京電影学院の副学長兼北京電影学院中国共産党委員会副書記の胡智鋒氏と中国浙江省横店映画・テレビ文化産業文学芸術界連合会会長の徐天福氏は中新社の独占インタビューに応じ、新時代の中国映画・テレビ文化産業の特徴を紹介し、横店とハリウッド、ボリウッド(インドムンバイの映画産業)との類似点と相違点を比較しながら、中国の映画・テレビ文化産業はどのようにして世界と交流し相互理解するのかについて語ってもらった。
インタビュー概要は以下のとおり。
中新社記者:新時代の中国の映画・テレビ文化産業の特徴は何ですか。
胡智鋒:総合的な国力の増大とともに、中国の映画・テレビ文化産業は、驚異的なスピードで発展し、スクリーン数は世界トップに躍り出て、フルデジタル化上映に率先して取り組んできました。国内の映画市場の地位はさらに強固なものになり、興行成績は一躍世界のトップになり、世界に巨大な映画・テレビ文化市場を提供しています。
新時代の中国の映画・テレビ文化産業の特徴は、第一に、中国政府は文化の強化を重視して、税収や人材など多方面において映画・テレビ文化産業を強力に支援しており、その政策的効果が顕著に現れていることです。第二に、映画市場が活況を呈する春節や国慶節などのシーズンには、中国映画は常に数十億元の興行収入をたたき出し、世界の興行ランキングで上位に入ることです。第三に、『覚醒年代』(原題:觉醒时代)『私と私の祖国』(原題:我和我的祖国)などの作品は、若者の人生観、価値観、世界観を形成する上で重要な役割を果たしており、教育的効果を高めていることです。第四に、対外広報機能が強化されていることです。第五に、映像技術が発展していることです。第六に、業界の主導的役割を常に発揮していることです。
徐天福:1996年、横店に映画『阿片戦争』(原題:鸦片战争)を撮影するための広州の街並みのオープンセットが建設され、映画・テレビ産業発展の扉が開かれました。これまで、横店で撮影された映画・テレビドラマは7万編以上にのぼっています。中国国家電影局が発表したデータによると、2021年に横店の企業によって製作された『長津湖』(原題:长津湖)と『こんにちは、私のお母さん』(原題:你好,李焕英)は、中国映画史上において興行収入で1位と2位を獲得しました。
新時代の横店は、業界全体の発展を図り、映像人材の「シリコンバレー」を構築し、中国と世界との文化交流を促進しています。現在、横店では29の国際標準のハイテクスタジオと近現代撮影用の多数のセットあります。照明、カメラなど多くの撮影機材は輸入されたもので、仮想化されたポストプロダクションの技術サポートは、北京、深圳、杭州等の中国のメーカーが行い、中国と海外の映画・テレビ技術の交流のための革新的なプラットフォームを提供しています。ヨーロッパの観光地を模した撮影基地(ドイツエリア)を現在建設中で、外国人が設計に参加し、「本物」のヨーロッパの街並みを再現しています。世界中の映画・テレビ会社にこのオープンセットを提供する予定です。このほか、横店では、「横漂」と呼ばれる市外から撮影に参加する10万人を超えるエキストラや1万8000人の撮影スタッフが活躍しています。中国と外国資本の共同出資により建設中の横店芸術大学では、中国と海外の映画・テレビ人材を共同で育成することにより、さらなる文化交流を促進する予定です。
中新社記者:グローバルな視点から、横店と米国のハリウッド、インドのボリウッドとは、どのように文化的相互学習を実現すればいいでしょうか。
胡智鋒:米国のロサンゼルスにあるハリウッドは、世界の映画・テレビ文化産業のパイオニアであり手本であり、その生産性と影響力は絶大です。特にハリウッドの映画・テレビ産業のシステムは非常に整備されており、コンテンツ制作、映画・テレビ制作、配給・放映・配信、経営管理など産業チェーンのあらゆる側面において、円滑できめ細かな双方向的な運営の仕組みが構築されています。たとえば、ハリウッドでは、出演料の設定、リスク回避、契約書の作成などの詳細について、一連の確立した業務手順があります。同時に、世界中で人材を集め、テーマを発掘し、世界規模で映画配給を実現します。
ボリウッドはインドのムンバイにあり、制作するミュージカルやコメディ映画は国民性が際立っていて、映画やテレビ作品の内容や作風で個性が強く、インドの独特な民族的特性があります。ボリウッドの映画・テレビ作品は、主に英語で制作されているので、配給・宣伝面で欧米の影響により、国際コミュケーションや文化交流のコストが抑えられます。
横店は中国の映画・テレビ産業の重要な拠点であり、特に撮影現場の運営は、中国の映画・テレビ産業チェーンの中でもっとも充実しています。ロケ撮影、ハイテクスタジオ撮影、多数のエキストラやスタッフに加え、横店では、ケータリング、宿泊施設や経営管理などの一連の映画・テレビ制作サービスを提供しています。文化観光の要素を映画・テレビ産業に取り入れることで、横店はまた映画・テレビ産業を牽引し業界を拡張し、「ともに豊かになる」ことにおいても重要な役割を果たしています。
映画・テレビ文化産業が早くから発展し、技術がより高度で、経験が成熟した世界の国と比べると、中国は、コンテンツの独創力、人材の競争力、芸術的創作の牽引力や世界でのカバー力、影響力などの面でレベルアップする必要があります。これは簡単ではないプロジェクトです。
中新社:映画・テレビの作品によって中国のイメージがどのように表現されていますか。
徐天福:中国の映画やテレビの制作レベルの向上に伴い、中国で制作された映画やテレビドラマが海外でヒットしています。『彼と私の両家の事情』(原題:媳妇的美好时代)は、アフリカで大ヒットし、アフリカの青年は、中国の女性を見るとドラマの女性主人公の名前で「豆豆(ドウドウ)」と呼びます。ベトナム最大級の動画サイトZingTVでは、『愛と容疑者に堕ちて』(原題:他来了,请闭眼)の視聴回数が3位にランクされ、『花千骨〜舞い散る運命、永遠の誓い〜』(原題:花千骨)が視聴回数1000万回を超えました。『ミーユエ王朝を照らす月』(原題:芈月传)の版権は10を超える国と地域が購入しています。横店の企業が制作した『瓔珞〜紫禁城に燃ゆる逆襲の王妃〜』(原題:延禧攻略)、『流転の地球』(原題:流浪地球)などのテレビドラマや映画は世界各地で放映、上映されています。
胡智鋒:いくつかのタイプの作品は、中国の物語を語り、中国のイメージを表現する点において抜きん出ています。一つめは、西洋になじみのある映像やストーリーで中国の独特な文化を描いている武侠アクション映画の『グリーン・ディスティニー』(原題:卧虎藏龙)です。二つめは、誰もが共感する衣食住旅をテーマにした映像作品で異文化理解を図る『舌で味わう中国〜A Bite of China〜』(原題:舌尖上的中国)などのドキュメンタリーです。三つめは、感情移入ができる、川や湖や海、自然の風景をとりあげた映像かあるいは、『あの子を探して』(原題:一个都不能少)などの家庭の倫理や個人的感情をテーマにした映像作品です。四つめは、チベットの人々の自然な生活を淡々と記録したドキュメンタリー『チベットの一年』(原題:西藏一年)で、中国政府の牧畜民への支援を如実に反映しており、中国は何のために、どのようにして人々のニーズを効果的に解決したかが記録されていて、共通認識が得られます。
どの民族、どの文化にも独特の思考があり、特に物語表現においては生まれ持った習慣があります。中国と欧米の映像作品を比較すると、欧米は、より合理的、立体的、構造的な表現を好み、中国は、感情的なロジックにしたがって抒情的かつ直線的に表現することがよくあります。たとえば、家庭内の愛と憎しみを描いた家庭倫理ドラマ『All Is Well』(原題:都挺好)は、中国と欧米の文化の違いが描かれ、中国の人々に好まれ、議論を巻き起こしています。また、世界的問題や人類の危機を解決するために独自の中国的解決法を描いた『流転の地球』(原題:流浪地球)は、「ハリウッド式」の「地球脱出」や「地球壊滅」と異なり、「地球ごと脱出する」という中国人の人類の生存と未来の運命についての憂慮が描かれています。その独特な映像表現方式は、人類の運命共同体の構築という理念に合致しています
中新社:世界に広める上で、中国の映画・テレビ作品には、どのような課題があったでしょうか。
胡智鋒:映画やテレビの作品、特に映画は、より直感的で躍動的で、ストーリーも充実しているため、異文化間や国を超えた伝播において、自然と優位になることができます。映画は、一般的な文化芸術作品と比較して、上映時間が短く、低コストで、普及させやすいため、非常に優れた対外広報の手段です。どの国も映画を文化普及に役立てようと思っていますが、これを実現するためにはまだ多くの課題があります
現在、中国の映画やテレビ番組を世界に広めようとしたとき、主に「明確でない、理解できない、届かない、受け入れられない」という4つの課題に直面します。まず、異文化コミュニケーションにおいては、特別な歴史的、政治的、社会的な習わしなどが多数あり、中国の物語を世界に通じる形で明確に伝えることは困難です。これが「理解できない」という問題につながります。そのため、複雑な問題を単純化し、過剰な解説を回避する必要があります。また、中国の優れた映画・テレビ作品を「外へ出す」ことにまだ抵抗があるようです。最後に、中国の映画やテレビ作品に抵抗感を持ち、中国から入ってくる価値観を否定する人もいます。
国際的普及の過程では、ひたすら「欧米に迎合する」ことを避ける一方、ただただ「傲慢になる」ことを避けることが重要です。国の発展と国民の生活の向上に伴い、中国人の自信は高まり、特に若い世代は国や中華民族に対するアイデンティティーを心の底から持ち、中国の優れた伝統文化に自信を持つようになりました。同時に、中国はまた文明の相互理解という態度で世界を受け入れており、中国の文化に誇りを持ちながら、文化の違いを認識し、異文化を尊重してもいます。
文明を交流により相互理解するには、無批判な傲慢さや無批判な劣等感を持たないことです。これが最良の文化的態度であり心構えです。(完)
胡智鋒氏略歴
北京電影学院の副学長兼北京電影学院中国共産党委員会副書記、中国のメディア学術分野で初めての教育部「長江学者」特別招聘教授。ハーバード大学上級訪問研究員、アジア、ヨーロッパ、米国、オーストラリアなどの数十の国と地域で講演や学術交流を行う。著書には、『立論 中国の映画・テレビ』『テレビコミュニケーション芸術学』『映画・テレビ文化論』『テレビ美学大綱』などがある。
徐天福氏略歴
中国浙江省映画・テレビ産業文学芸術界連合会副会長、中国共産党中央委員会宣伝部文化名人・四大才能賞受賞。中国最高人民法院映画・テレビ業務顧問、中国映画配給上映協会副会長、中国映画プロデューサー協会副会長、中国児童少年映画学会副会長、中国映画産業発展研究院映画配給研究所副所長などを歴任。プロデュース作品『A Little Red Flower』(原題:送你一朵小红花)、『こんにちは、私のお母さん』、『My Sister』(原題:我的姐姐)など名作多数。
【編集:于暁】