東西問・西洋一元民主主義の神話をどう超えたか、全過程人民民主主義、張樹華政治学研究所長が論文

北京12月11日発中国新聞社電は「全過程人民民主主義はどのようにして西洋式一元民主主義の神話を超越したか」と題する政協全国委員で中国社会科学院政治学研究所所長の張樹華氏の次のような論文を配信した。

2016年4月,ワシントンアメリカ合衆国議会議事堂の外、千人を超えるアメリカ人が不正選挙や民主状況に対する不満を表す金権政治反対デモを行った。(CNSphoto)

 30年余り前、フランシス・フクヤマ氏らの学者が「歴史終焉論」、「西洋式民主主義一元論」などの論調を唱え、「民主主義・自由・人権」などの西側の観念に基づく制度モデルが天下を統一すると考えた。これと同時に、西側の政治屋も「民主主義・自由・人権」などを絶対化・道具化・ロゴ化・外交政策化した。長年にわたり、西側は民主主義の定義権・判定権を独占し、思想・制度と発言権における霸権を守り、他国はこれに従えば友とされ、そうでなければ敵とされた。従わない者には政治的・経済的に封じ込めるか、和平演変(平和的転覆)・カラー革命をたくらみ、その思想の西洋化・制度の同質化・発言権の弱体化をはかった。

 だが、30年余りが過ぎて、西洋式民主主義モデルは人類の歴史の終焉をもたらさず、世界の平和と発展ももたらさず、まして公平と正義、民主主義と自由などもたらさなかった。逆に、西側陣営が冷戦後に西洋式民主主義を押し売りして、世界にもたらしたのは動乱、衰退、分裂、離散、血涙だった。西側社会自身も政治の過激化、社会のポピュリズム化、アイデンティティーの分裂化などの苦境に陥っている。「金権政治」、「エリート政治」、「アイデンティティー政治」が横行し、新しい資本と古い寡頭が権力を奪い合い、財閥集団が選挙を操作した。米国の政治学者ラリー・ダイアモンド氏は、米国が歴史的に自負してきた西洋式民主主義は2006年から衰退し始めたと認めている。フクヤマ氏は著書「政治の衰退:フランス革命から民主主義の未来へ」の中で、米国式民主主義が衰退期に入っており、天下を統一するのは難しいことを認めざるを得なかった。

2020年5月にアメリカのミネソタ州ミネアポリスの路上で、黒人男性のジョージ・フロイドさんが白人警察官に首を押さえつけられた後に死亡した。ジョージ・フロイドさん死亡事件は「Black Lives Matter」と訴える人種差別抗議デモがアメリカや世界各地に広がるきっかけとなった。(CnsPhoto)

 ここ数年、一部の政治学者らは視点を変え、西側の政治的混乱と病的な民主主義の脈をとり始めている。複数の学者は、変質した「民主主義」が社会の分断、人種・民族間の矛盾、貧富の分化をもたらし、ポピュリズムなどの過激な思想を生み出し、民主主義の破綻と人権状況の悪化をひどくしたことに注目している。民主主義の変化と変質は一部の国に内部の意思決定の混乱、相互の掣肘、動員力不足をもたらし、政治を悪循環に陥らせている。以下の視点から西洋式民主主義の神話を打破すべきだ。

 第一に、西洋式民主主義はどこにでも当てはまる共通ソフトウェアではない。民主主義の生成と発展には経済的基礎、法治精神など一連の条件が揃っている必要があり、やみくもに他国に移植しても水が合わず、南橘北枳(なんきつほくき)となる。西洋式民主主義も千篇一律ではなく、米国式の大統領共和制、ドイツ式の議会共和制、英国式の立憲君主制などさまざまなモデルがある。世界各国の国情はそれぞれに異なるため、多様な民主政治のモデルがより必要であり、無理に西洋式民主主義が持ち込まれれば、政治的エコシステムの混乱や拒否反応は避けられない。2003年にブッシュ政権がイラクに米国式民主主義を移植したことについてフクヤマ氏は、ブッシュ政権は民主政府と市場経済が複雑な要因(政党・法治・財産権・共通のアイデンティティー)の相互作用に由来し、これらの要因が民主主義の先進国では長い年月をかけて獲得されたことを理解していないと批判している。(中国通信=東京)

 第二に、西側の政治屋は安全で適正な民主主義の完成品を無料でプレゼントするのではなく、「民主主義」を西洋化、弱体化、他国の改造、自身の霸権の擁護のための道具と手段にしてきた。西洋式「民主主義生産ライン」の製品には常に地政学的な私利が織り込まれている。まさに中国外務省の「米国の民主主義状況」報告が言うように、米国はいわゆる民主主義を輸出して悪い結果をもたらし、「カラー革命」で地域と国家の安定に危害を与え、いわゆる民主主義の押し売りで人道的な悲劇を引き起こし、制裁を乱用して国際ルールを破壊し、「民主主義の灯台」は全世界から批判されている。

 第三に、西洋式民主主義の先天的欠陥と後天的不足が民主主義のゆがみ・疎外・変質をもたらし、「西洋式民主主義老化シンドローム」が現れている。西洋式民主主義は過去にポジティブな歴史的役割を果たしたが、その後現状に甘んじて進歩を求めず、絶え間ない改革と改善を図れなかったため、ネガティブな弊害が日ましに顕在化している。西洋式自由思想は徐々に「絶対自由」へと変化し、西洋式民主主義の価値は徐々に一枚の投票用紙に単純化され、西洋式民主主義の人権理念は徐々に「有名なダブルスタンダード」へと変質した。100年ぶりの変局と歴史的な新型コロナの流行が重なる中、政治的混乱、経済的危機、人種・民族間の衝突、難民問題などが「西洋式民主主義老化シンドローム」の現れとなっている。

 ◇全面的政治発展観を堅持する

 西洋式民主主義の弊害を克服し、民主化のパラドックスを打破するには、新しい民主主義観を提唱し、全面的な政治発展の理念を打ち立て、政治の協調と全面的発展を推し進める必要がある。

 新しい民主主義観と全面的政治発展観では、西洋式民主主義は決して歴史の終点ではなく、民主主義は決して西洋式が最も完璧ではないと考える。民主主義は歴史的、具体的で、発展するものであり、その国の文化と現実の土壌に根差したものでなければならない。全面的政治発展には、民主主義的価値(公平・権利・自由など)、法治の要素(安定・規則・秩序など)、効果の目標(業績・責任・廉潔など)という、相互に依存し合い、弁証法的に統一された三組の要素と価値の追求が含まれる。政治的民主主義と政治的効果は全面的な政治発展の動因であり、法治・安定・政治的秩序は政治的民主主義と政治的効果の条件と保障であって、共同で政治の全面的発展の価値と目標を構成している。政治改革と政治発展の任務はこれら三組の要素の「均衡点」を正しくおさえることにほかならない。

 民主主義を発展させることは全面的政治発展の重要な一環であり、適当な道筋、合理的な速度、有效な方法を選んではじめて民主政治をより高効率でより良質なものにすることができる。民主化の「単騎突撃」は政治の発展を後押しするとは限らず、むしろ民主主義が制御不能や政治の衰退を招き、「政治対立と民主主義劣化」の泥沼に陥ることになる。全面的政治発展観では全局的視野、戦略的定力、持続的協同を提唱し、「民主化」のプロセスを穏やかに乗り切り、民主化のプロセスを政治発展の全般的目標に組み込むとともに、経済の建設・社会の建設・文化の建設・法治の建設などのプロセスと調和させる。

 中国の政治改革と政治発展のプロセスは全面的政治発展の理念に則り、全面的協調性・動態的発展性・主権の歴史性の弁証法的統一を体現している。中国は民主観・人権観・自由観を刷新し、全面的政治発展観を提唱・堅持し、西側の発展モデルと論理的枠組みを突き破り、政治の発展力と国家の統治〈ガバナンス〉能力を高め、民主主義の新たな道を踏み出して、中国社会の全面的で調和した発展を思想と価値の面から保証している。

 ◇全過程人民民主主義を発展させる

 まったく新しい民主主義観、まったく新しい全面的な政治発展の道は、一種の真実と広範な人民民主主義を代表している。全過程人民民主主義は中国の人民民主主義の最新の成果と成功した実践であり、社会主義民主政治の鮮明な特徴であり、西側のブルジョア民主主義と区別する顕著な特徴である。全過程人民民主主義は一連の法律と制度手配により、民主的選挙、民主的協議、民主的意思決定、民主的管理、民主的監督の各段階を互いに結び付けた全チェーン・全方位・フルカバーの民主主義である。

 全過程人民民主主義は随時オンライン状態を保ち、短期間の投票後に休眠期に入る間歇的民主主義を超越している。全過程人民民主主義には多様化した民衆の利益要求表現のチャンネルと公平な利益調和の仕組みがあり、多数の人々の真実の意思が少数の利益集団によって封じ込められる局部的民主主義を超越している。全過程人民民主主義は民主集中制の原則に従い、最大限の政治的合力を形成し、国家統治の高效率の統一を効果的に保障することができ、徒党を組んで異論を排する、互いに否決し合う、長々と議論する、なかなか決められないといった低效率の民主主義を超越している。

 全過程人民民主主義は直接と間接、民主と集中、過程と結果、形式と実質などの段階の優位性を総合し、全過程的、開放的な政治参加と民主主義表現の仕組みを有している。例えば多党協力、政治協商、国是の共同協議などは、政党がたらい回しで国務を独占し、利益集団が国事の意思決定権を握り抑える寡頭式統治を超越している。中国の民族区域自治制度は各民族人民が主人公になることを保障し、民族の平等・団結・互助・調和を促進することによって、排外主義を吹聴し、制度的な人種差別があり、難民と移民を虐げる偽物の民主主義を超越している。全過程人民民主主義を発展させ、的確貧困脱却と郷村振興を推し進め、質の高い発展の中で共同富裕〈共に豊かになる〉を実現し、民生を発展させ、民心を守ることは、貧富の格差を野放しにし、金権政治に依存した寄生的民主主義を超越している。全過程人民民主主義は他国の内政に干渉せず、民主主義を広めるという名目で地政学的な私利をはかる覇権的民主主義を超越している。

 全過程人民民主主義を発展させることで国家の安定・人民の団結・社会の進歩が保障され、「中国の治」の制度的優位性が示されて、発展目的の人民性、発展方式の多様性、発展プロセスの持続性、発展結果の有效性が体現されている。

 中国の治の実践的価値と概念的含意は幅広く奥深い。新しい民主主義観と全面的発展観を理念とする中国の治は、世界の近代化発展の新しい道を切り開き、人類の政治文明の新しい姿を生み出し、世界の政治文明の花園の中で燦然と輝き、光を放っている。

中国社会科学院政治学研究所所長の張樹華氏

You may also like...

Leave a Reply

Your email address will not be published.