「用心之外、必見神奇」心がけが奇跡を起こす 日中ナレッジセンター(株)代表取締役 李年古(りねんこ)

忘年会は士気を高める絶好の機会

 

旧正月の前には、深圳市のどのような高級ホテルあるいはレストランへ行ってもこんな風景に目を奪われる ――。

広々とした会場は人で埋め尽くされ、数十のテーブルには贅沢な料理が並び、無数のライトを浴びた舞台の上には、「〇〇公司年会」という幕が大きく掲げられ、会場の天井を吹き飛ばすような爆発的な音楽と歓声が響き渡っている。

「年会」というのは会社の「親睦会」で、日本の忘年会と新年会をミックスしたようなイベントだ。中国の企業は、1年の締めくくりとして豪華さを競い合って開催する。狙いは、会社と社員の一体感を強め、新年に向けて士気を高めることにある。一方、社員たちは、忘年会の規模と経営者の挨拶を通して会社の景気や社長のやる気を占う、絶好のチャンスと捉えている。

旧正月に帰省した僕はちょうど、「藍青集団」というローカル教育会社の「年会」を目撃する機会を得た。市内の五つ星ホテルに会場を借り、舞台には「鋭意2019、全新出発」というスローガンが三面の巨大スクリーンに映し出された。800人余りの参加者が円卓を埋め尽くし、地元テレビ局の有名キャスターが司会を務め、プロの芸能人が続々と登場した。僕はまるで日本のNHK紅白歌合戦の会場に身を置いたかのような錯覚に陥った。

これほど豪華な年会のために、会社はどれほどの経費を費やしたのか? 好奇心を抑えきれず、同社社長に突っ込んで訊いてみると「16万元。出席者1人あたりの費用は2000元」との返答があった。なんと日本円にして3万円を超えるイベントだったのだ!

年間利益が約600万元のこの会社がそのような贅沢な年会を開催して、果たして相応の効果が得られるのだろうか? しかし、年会が進むうちにその疑問への回答が得られた気がした。

人心を捉えるコツは家族にあり

まず、強く印象づけられたのは、社員の家族がその年会における隠れた存在価値であることだ。彼らはおそらく出席者の半数以上を占めていた。多くの社員の子どもたちが会場を走り回り、お祭り気分で会場を沸かせた。そして登場した会社の経営者や株主の発言を注意深く聞いていると、ここ1年で会社の収益を2倍にした実績をアピールした後すぐに、その功績を社員だけでなく、彼らの家族の支えが最大の原因だと、惜しみない賛辞を贈った。同社の李社長は、自身の仕事と家庭の両立の悩みを例にしながら、気持ちを込めてこう語りかけた。「もし家族の皆さんの献身的なサポートがなかったら、私たちの会社はここまでの奇跡を起こすことは決してできなかったはずです。ですからこの年会で、ご家族の皆さんに最大限の感謝の意を表したいのです」

その会社の株主である肖博士と僕は旧知である。数年前、この会社は一時的に社員の給料さえ支払えない厳しい状況に落ち込んでいた。しかし彼は、破産の危機に瀕したこの会社にいきなり約2億円相当の現金を投入した。そこまでリスクを冒した理由を訊くと、彼は、「李社長の人格に対する信用投資だ」と明快に答えた。「彼女がお客さんや社員に接する際、最も魅力的なところは『用心』(心がけの意味)だ。芸術専攻の博士学位を持つ女性なのに、まるで兵法を知っているみたいだ」

僕はすぐに彼が言う「兵法」の意味を悟った。確か『三国志』の中に次のような一節がある。「兵を用いる方法は、心を攻めることを上とし、城を攻めることを下とする。心の戦を上とし、兵による戦を下とする」

人心をとらえることが経営者の重要な素質であることは疑いない。しかし、どのようにして心の琴線に触れればよいのだろうか。この年会で一連の経営者の発言と贅沢なもてなしを体験して、僕はふと思った ――中国人社員の心を動かす秘訣は、彼らの家族を巻き込んで味方にすること。社員の家族に対する「用心」に徹することこそ、士気を高める最大の武器ではないだろうか。

会場の雰囲気はいよいよクライマックスを迎えた。ボーナスを発表する時間だ。スクリーンには、社員1人ひとりの顔が大きく映し出され、「成長チーム賞」「協力チーム賞」「創新チーム賞」「貢献チーム賞」などを獲得したメンバーが次から次へと壇上に上がった。最も歓声が上がったのは、「最大貢献賞」が授与される場面だった。

登場したのは、3人の女性。その中で最高金額を獲得する社員が発表されたときには、会場が一瞬静まり返った。

「彼女はタフな状況のときほどやる気が出る人間です。お客さまのために最も心をくだき、会社の実績に貢献した社員なのです。従って彼女に授与する賞金はなんと、37万元!」

興奮した様子の歓声が沸き上がった。3人の女性は、金額を記した大きな看板を頭上に高々と掲げた。他の2人の賞金は20万元と28万元だった。

結局、社員と家族への「用心」とは、経営者が思い切った利益還元の姿勢を見せること。これこそ最も説得力があるということに気づかされた年会であった。

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