瞿同祖氏の名著『中国の法と社会』日本で出版
中国法律史および社会史研究の礎を築いた瞿同祖先生の名著『中国法律与中国社会』(中文書名)の日本語全訳版(日本語版名は『中国の法と社会』)が、2025年9月にアジア太平洋観光社より正式に刊行されます。本書の日本語訳は、日中両国の専門家チームが五年の歳月をかけて完成させたもので、原著の学術的脈絡を完全に保持し、古典的名著としての価値と学術的ツールとしての価値を兼ね備えています。二十世紀四〇年代に誕生し、八〇年以上の時を経た本書が、日本学界において初めて完全な日本語版として紹介されることは、東アジア法文化比較研究に新たな対話の場を切り開くものです。

『中国の法と社会』
瞿同祖(1910–2008)先生は、1934年に燕京大学研究院に入学し、1939年に雲南大学の社会学・政治経済学・法律学の各学科で講師を務め、その後、副教授・教授へと昇任しました。1944年には西南連合大学の講師を兼任し、この時期に『中国法律与中国社会』を執筆しました。本書は学界における画期的な業績となり、後に英訳版(Law and Society in Traditional China)によって国際的な名声を博し、西洋漢学界における中国伝統の法文化を理解するための必読書となりました。瞿同祖先生は、中国で初めて社会科学的方法を系統的に法制史研究に応用した学者の一人であり、その学術的歩みは伝統的法学研究の枠を突破するものでした。とりわけ、瞿同祖先生が提唱した「法律儒家化」理論、すなわち漢代以降の法律体系が徐々に儒家倫理に浸透していった歴史的過程の解明は、中華法律体系を理解する上で不可欠な分析枠組みを提示したものです。思想史と社会構造の双方の視角から法律の展開を読み解くこの方法論は、今日に至るまで中国法制史研究において重要な意義を持ち続けています。
今回刊行される日本語版は、日本における中国研究に対して、体系的な法社会学的理論の参照枠を提供するものとなります。本書が持つマクロな歴史社会学的視野と構造的分析の枠組みは、既存研究に新たな理論的活力を注入するでしょう。特に本書で展開される「階級」「家族」「宗教」といった要素と法律との相互作用の分析は、日本学界が得意とする実証的研究と方法論的に補完関係をなし得ます。また本書は、東アジアの法律文化の比較研究において対話のプラットフォームを提供します。本書が提示する中国における「礼法秩序」の深い解釈は、日本の学者に対して、自国が中国法を受容する過程における文化的調整の現象や、日中両国の伝統的司法および法理の差異性を再考させる契機となり得ます。さらに、現代法哲学の次元においても、本書は「近代性」に関する再検討を促します。本書が明らかにする中国法律の内在的論理――義務本位、差序的正義、調停優先といった東洋的伝統法文化における統治の知恵――は、新たな制度的想像力を啓発するでしょう。
八〇年に及ぶ社会変遷を超えてきたこの学術古典は、このたび日本語訳を通じて再び生命力を獲得しました。グローバル化とローカル化の緊張がますます高まる今日、瞿同祖先生による中国法律と社会との関係に対する深い洞察は、学術界において無視できない価値を持つだけでなく、東アジア文明が自己認識と対話を深めるための重要な媒介となることが期待されます。
本書は日本各地の書店に販売されています。




