嶺南の風が東瀛に響く 深圳交響楽団、日本初公演で大成功

11月4日夜、東京オペラシティのコンサートホールは満席。中国の若手作曲家・王丹紅による《粤彩南風》の中で、「旱天雷」や「平湖秋月」といった広東音楽の名旋律が流れ始めると、会場にはまるで嶺南地方の空気が漂った。続いてヴァイオリン独奏にはニン・フォン(宁峰)が登場し、ベートーヴェンの《ニ長調ヴァイオリン協奏曲》を熱演。後半は篠崎和子が日本の作曲家・武満徹のハープ名作《海へ II》を披露し、ラストはレスピーギの壮大な交響詩《ローマの松》で締めくくられた。演奏が終わると、客席からは長く鳴り止まない拍手が送られた。

この日本初公演で、深圳交響楽団は総合的な実力を存分に見せつけた。終演後、団長であり音楽監督の林大葉は『アジア・パシフィック・ニュース』の取材に「日本の観客が中国のオーケストラを認めてくれたと感じ、とても嬉しい。今後も日中の音楽家がもっと行き来し、協力し合えることを願っている」と語った。

深圳交響楽団日本公演

深圳交響楽団日本公演

日本人観客のアヤミさんはこう話した。「深圳には何度も行ったことがあるけど、あそこが経済的に発展した大都市であるだけでなく、クラシック音楽文化をとても大事にしている都市だとは思わなかった。本当に感心したよ。」

1週間にわたる今回のツアーでは、東京と京都での公演に加え、名古屋音楽大学でも特別演奏会を行う。指揮は上海音楽学院作曲指揮科の日本人学生・遠藤綾音。ピアニスト村木舞香、ファゴット奏者植田隼斗が共演し、モーツァルトの《ドン・ジョヴァンニ序曲》、ピアノ協奏曲第23番イ長調、ウェーバーの《ファゴット協奏曲ヘ長調》などを披露し、交響楽を通じた日中の交流を深める。

このツアーは、まさに「待ちに待った再会」でもある。日本在住の華僑・華人たちは、2020年の段階で音楽プロデューサー松田亜有子から深圳交響楽団の来日計画を聞いており、大いに期待していた。しかしコロナ禍の影響で延期を余儀なくされ、5年越しの実現となった。それでも日本の音楽ファンの期待は変わらなかった。

深圳交響楽団は1982年に創立。創設当初から「未来の中国シリコンバレー」と呼ばれるこの都市の文化的夢を担ってきた。発展の軌跡は、深圳経済特区の飛躍と共にある。40年以上の研鑽を経て、かつては辺境の小都市の楽団だった深交は、今や中国音楽界を代表する精鋭オーケストラへと成長した。その卓越した技術と情熱的な演奏は国内外で高く評価され、深圳という都市の文化的象徴となっている。

今回の指揮を務めたのは、深交の“魂”とも言える指揮者・林大葉。中独両国の名匠に師事し、2012年に名高いソルティ国際指揮コンクールで優勝した実力者だ。彼の幅広い国際的視野と芸術的洞察が、楽団に新たな活力をもたらしている。林のもとで深交はクラシックの伝統を重んじながらも、中国の現代作曲家の作品を積極的に紹介し、「伝統に根ざし、革新を恐れず、開かれた精神を持つ」独自のスタイルを築いてきた。

さらに注目すべきは、深交が国際的な音楽家を積極的に迎え入れている点だ。ヴァイオリンの巨匠であり、マリンスキー交響楽団の客演指揮者兼コンサートマスターでもあるロレンツ・ヘルシュコヴィチを名誉コンサートマスターとして招聘。彼の加入により弦楽セクションの表現力は格段に向上し、深交が世界水準の芸術性と運営力を持つことを示した。今回の日本公演でもヘルシュコヴィチが首席として舞台に立ち、最高レベルの演奏を支えた。

共演者には、パガニーニ国際ヴァイオリンコンクール金賞受賞者で世界的ヴァイオリニストの宁峰が名を連ね、ベートーヴェンの協奏曲第61番を情熱的に奏でた。

まさに今回の演奏会は、東西をつなぎ、古今を貫く音楽の架け橋。文化交流の誠意と職人技が詰まったプログラムだ。ツアーはこのあと、11月6日18時に名古屋音楽大学・成徳館12階ホール、8日14時30分に京都コンサートホールで開催される。どちらも見逃せない公演となる。

深圳交響楽団名古屋演奏会

深圳交響楽団名古屋演奏会

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