世界的食糧危機に人口大国はどう対応するのか—清華大学中国農村研究院副院長
(中国通信=東京)北京12日発中国新聞社電は「世界的食糧危機に人口大国はどう対応するのか 中国農業リスク管理研究会会長で清華大学中国農村研究院副院長の張紅宇氏にインタビュー」と題する次のような記事を配信した。
ロシアとウクライナの衝突で世界の食糧安全保障は大きな打撃を受け、さまざまな種類の農産品の価格が十数年ぶりの高値をつけている。世界食糧計画(WFP)の高官は最近、世界は第2次世界大戦以降で最大の食糧危機を迎えている可能性があるとした。現在、人口大国は世界の食糧安保の課題にどう対応すべきか。中国の食糧安保は影響を受けるのか。食糧安保問題で中国と他の国で、理念と措置にどのような違いがあるのか。中国新聞社の「東西問」コーナーはこうしたテーマをめぐり、中国農業リスク管理研究会会長で清華大学中国農村研究院副院長の張紅宇氏にインタビューした。要旨は以下の通り。
問:ロシアとウクライナの衝突がどうして世界の食糧危機を激化させ、世界の食糧価格を押し上げたのか、また世界の食糧供給情勢にどのような影響をもたらしているのか。
答:ロシアとウクライナは世界の重要な穀物生産大国、供給大国で、関係の統計データによると、両国は合わせて世界の大麦の19%、小麦の14%、トウモロコシの4%を供給し、世界の穀物供給全体に占める割合が25%に達している。ロシアはさらに世界の重要な化学肥料生産・輸出大国でもあり、世界の生産資材価格に影響を与えている。
そもそも新型コロナ肺炎の流行で世界の食糧供給は深刻な打撃を受けている。2020年6月以降、世界の食糧価格は変動し、上昇を続け、2022年2月に過去最高値をつけた。ロシアとウクライナの衝突は世界の食糧市場にさらなる打撃を与え、この打撃には波及性、拡大性、災害性があり、食糧サプライチェーンに影響をもたらし、波及作用で、世界の食糧価格を押し上げている。衝突がもたらした食糧危機は一部の貧困国にとって「弱り目にたたり目」で、世界の飢餓の危機を激化させている。食糧は経済・社会の発展の基礎で、食糧供給に問題が起きれば、より多くの面にそれが伝わり、波及することになり、世界の経済・政治情勢にマイナスの影響をもたらす。
問:国連食糧農業機関(FAO)が発表したリポートによると、今回の衝突で国際食糧・飼料価格が最大で22%上昇する可能性があり、それによって発展途上国の栄養不良の人が激増する可能性があるという。今回どの国の食糧安保が最も大きな脅威にさらされると見ているか。またこれにどう対応するべきか。
答:世界では現在7~8億人が飢餓または半飢餓の状態にあり、これは主にアフリカなど南半球の国に集中している。こうした国は天賦の資源条件に限りがあり、経済発展レベルが低く、農業科学技術が極めて遅れていて、農業生産能力がもともと不足しているため、需給のアンバランスが深刻である。
今回の衝突は食糧価格の上昇を激化させた。これに加え、エネルギーコストの上昇で輸送能力が低下し、低所得国・低所得層の食物購買能力が急激に低下すると見込まれ、世界の飢餓と貧困の危機が激化するだろう。目まぐるしく変化して予想が難しい国際環境に直面し、各国が食糧備蓄を増やすため、世界の食糧供給の不均衡をさらに激化させることになる。
こうした状況に直面し、世界の食糧生産力と供給の不均衡問題解決に力を入れなければならない。一部の後発途上国の農業科学技術レベルの向上と農業生産能力の向上をサポートし、手を取り合って試練に対応し、食糧貿易を円滑にすべきだ。
問:最近、中国国内の小麦、大豆、トウモロコシなどの価格もある程度上昇している。中国の食糧安保はどのような状態か。
答:中国の食糧生産は安定し、供給も十分で、消費需要に対応できる。中国人の食の問題は完全に自ら解決できており、「食糧絶対安保」に十分自信があると言える。2021年、中国の食糧収穫量は6・83億㌧で、前年に比べ2%増え、そのうえ人口増加の減速で食糧の絶対需要量がすでに大幅に減っている。
新型コロナやロシアとウクライナ衝突の影響で、最近中国国内の小麦、大豆、トウモロコシなどの価格にある程度の変動、調整がみられるが、全体的に見て、中国の食糧価格は制御可能な範囲にあり、各品種、各地域の食糧価格に大きな乱高下は見られず、高いものもあれば低いものもあるという状態にある。
一方、現在中国の資源型農産品(主に耕地自体の地力に頼って生産される農作物)の対外依存度がますます高くなっていることにも注意すべきだ。昨年の中国の食糧輸入量は過去最多の1・62億㌧に達し、中でも最大の大口商品は大豆だった。大豆を加えて計算すると、中国の食糧対外依存度はすでに19%に達している。また肉類の対外依存度もすでに9%に達している。
最低ラインを守る考えを強化しなければならない。新しい情勢の下、食糧安全保障観を「食糧安保」から「食物安保」に切り替え、資源型農産品の自給率に高い関心を寄せ、あらゆる食物の自給率の低下を防がなければならない。
問:人口大国である中国の1人当たり食糧占有量は470㌔以上に保たれ、これは国際的な食糧の安全ラインとされる400㌔を大きく上回っている。食糧安保で中国はどういった理念と措置があるのか。
答:中国は歴史的に農耕大国であり、食糧安保をずっと経済・社会発展の礎石としてきた。例えば「百業は農を本とする」、「食糧が天下を安定させる」、「食糧節約」などの理念はいずれもこうした特性を示している。
中国の食糧安全保障観には独自の個性があり、またその他の大国との共通点もある。それは「食の問題で他に制約されない」ということである。世界の真に強大な国は、いずれも自らの食の問題を解決する能力を有している。例えば米国は世界最大の食糧輸出国、最大の農業強国であり、ロシア、カナダ、欧州連合(EU)の大国も、食糧強国である。
現在、世界最大の人口大国である中国は、人口増加の速度が減速したとはいえ、国民の生活レベルの向上、食物需要構造の高度化、都市化プロセスの加速で、肉類、高品質食物への需要が高まり続け、農業生産コストが絶えず上昇している。中国政府は食糧安保をより際立った位置に据え、食糧安保を最低ラインの任務、重点中の重点とみている。
問:近年の不安定な世界の食糧価格と今回のロシアとウクライナの衝突の中で、中国は自国の食糧状況をどう安定させるのか。
答:今回の衝突は世界の食糧供給に大きな影響を与えており、中国に対しても警鐘が鳴らされている。厳しい情勢に直面する中、中国は昨年の中央経済工作会議で「第1次産品の供給を正しく認識し、把握しなければならない」と提起し、生存と安全保障をより際立った位置に据えた。
現在、新型コロナの感染が依然続き、世界経済が動揺し、外部環境がより複雑化している。中国は「自国主体」の食糧安全保障観を堅持し、中国の資源で中国の問題を解決し、中国の供給で中国の需要問題を解決すべきだ。これについて、六つの面から取り組むべきだ。
第一は資源。農地資源の数、質、潜在力に焦点を絞る。耕地面積18億ムー〈1・2億㌶〉のレッドラインを確かなものにし、高規格農地の建設を加速させ、東北地区の肥沃(ひよく)な黒土の保護を強化し、アルカリ性土壌の改造を実施すべきだ。
第二は制度。農村家族請負責任制を堅持し、食糧生産の大規模化を推進し、土地の「三権〈所有権、請負権、経営権〉分立」を一段と実行に移さなければならない。
第三は科学技術。トウモロコシと大豆の単位面積当たり収量を突破口にして、バイオ技術によって種子業の振興を後押しし、大豆の自給率を引き上げ、トウモロコシの生産安定・高収量を保証しなければならない。設備技術・農業機械の発展を後押しし、農業グリーン技術を発展させなければならない。
第四は政策。食糧生産農民に合理的な収益をもたらし、農民に補助金を支給し、価格政策によって生産資材価格の上昇が農民にもたらした損失を補てんし、財政における優先的な保障、金融における重点的な傾斜によって、農業のリスク保障を刷新しなければならない。
第五は経営方式。協同組合、家族農場、農業企業によって、食糧生産の大規模化・地域化・集約化を後押ししなければならない。
第六は貿易構造。国際情勢がどのように変化しても、中国は対外開放を堅持し、時代に合わせて貿易方式を改革し、世界をリードする農業企業を育て、国際競争力を高めなければならない。(完)