絹の主要生産地は中国から欧州、日本、そして再び中国に―専門家が歴史と現状を説明

世界で始めて絹を生産し利用したのは中国人だ。歴史上は主力生産地が欧州や日本に移ったこともあったが、今では中国が世界一の絹の生産国だ。今ではIC産業などにも関わる全く新しい絹の利用法が研究されているという。国際的な養蚕学の権威で、西南大学養蚕学・系統生物学研究所の所長などを歴任した向仲懐氏はこのほど中国メディアの中国新聞社の取材において、中国の「養蚕事情」を説明した。以下は向氏の言葉に若干の説明内容を追加するなどで再構成したものだ。

養蚕が発明されたのは中国だ。絹の主要生産地はその後、欧州や日本を巡り現在では再び中国に戻った。絹にはIC産業などにも関わる全く新しい利用法が期待されているという。写真は中国にあるシルク博物館。

■飛び切りの高級品だった絹、須臾生産地は世界各地を移動

中国では今から5000-6000年前に養蚕が始まった。最も古い時代には、絹は帝王だけが使える布地だった。紀元前2世紀には、絹が西洋に輸出されるようになった。いわゆるシルクロード交易だ。古代ローマでも絹はとびきりの高級品だった。東ローマ帝国のユスティニアヌス1世は571年にササン朝ペルシアとの戦争を起こしたが、その大きな原因にペルシア人が絹取引の利益を独占したことがあった。

18世紀になると産業革命や実験科学の隆盛で、イタリアやフランスなど欧州が世界の養蚕産業の中心になった。一時は欧州での繭生産量が全世界の3分の1以上に達した。しかしフランスなどで微粒子病によって蚕が大被害を受けた。また欧州の絹産業は台頭した中国や日本との競争にも直面して、1950年代ごろまでに衰えていった。

欧州に次いで台頭したのは日本だった。明治維新後の日本では、外貨獲得のために養蚕業が極めて重要な産業とされた。欧州から先進的な技術を導入し、研究教育機関が設立された。官民が一体となって輸出先市場の開拓もした。最盛期には日本の農家の6割以上が蚕を飼った。桑畑の面積は日本の全耕地面積の26.3%にも達した。日本から輸出される絹の欧米市場におけるシェアは75%に達した。

■日本が蚕ゲノムの共同解析を放棄、中国は「自力更生」の道

中国では中華人民共和国成立後に、絹は外貨獲得のための重要な輸出品とされた。1970年には繭生産量が12万1500トンに達し、日本を抜いて世界一になった。1994年には繭生産量が67万4000トンに達した、現在のところ中国は世界の繭の8割前後を生産している。養蚕業の中心は中国から欧州へと移り、日本を経由して再び中国に戻ってきた。

21世紀になると遺伝子資源が極めて重視され、ヒトゲノム計画やイネゲノム計画も本格化した。養蚕業でも例外でない。技術体系はすでに蚕や絹繊維に直接関係するものではなく、遺伝子をめぐるものだ。

世界の養蚕産業で、新たな技術体系は日本で構築された。中国と日本などの科学技術の水準の差は大きかった。私は1982年に日本留学に派遣された。私は中国の養蚕業振興のために、科学技術の飛躍を実現すると決意した。私も関係した「中国カイコゲノムプロジェクト」が1995年に提出されたが、実施するための条件は整っていなかった。

日本は2001年、カイコゲノムの解析での国際協力を目的として、8カ国20人以上の科学者と協力して国際鱗翅目昆虫ゲノム計画準備会をフランスで開催した。絹の生産量が世界全体の7割を占めていた中国は招かれなかった。2002年には日本でカイコゲノム計画の国際会議が開かれた。中国人科学者の実力を踏まえた協議の結果「日中両国が率先して5割ずつを担当して、2004年にカイコゲノム解析を完成させる」との合意に達した。

しかし日本側は2003年初頭に、一方的に共同研究を打ち切ってしまった。そこで我々は、広東省深セン市に本部を置きゲノム解析を行っている華大基因と協力して、蚕のゲノム解析を始めた。400人以上のスタッフが24時間体制で作業を続け、100日余りで蚕ゲノムの骨格部分を解明することができた。

■半導体生産などへの利用が期待できる絹たんぱく

伝統的な養蚕業はすでに成熟している。しかし、新たな分野を開発する余地は大いにある。例えば絹を絹たんぱくという素材物質として利用することだ。絹たんぱくには生体適合性、生分解性、物理的・化学的安定性などの特長がある。絹たんぱくは生物由来の物質として、まずは医療分野での利用があるが、それだけではない。

蚕ゲノム生物学国家重点実験室と中国科学院重慶グリーンスマート技術研究院は2021年5月、シルク・フォトレジスト実現チームを結成した。フォトレジストとは、光や紫外線、電子ビームなどを照射すると性質が変化する物質を使う技術だ。その物質を薄膜にして加工したい物に貼り、微小なパターンを描くように光をなど照射する。露光した部分としない部分で薄膜の性質が変化するので、後処理によって貼られた物の表面に微小なパターンを作ることができる。半導体回路やプリント配線の製作に使われる技術だ。

チームは遺伝子組み換えでフォトレジストに利用できる絹たんぱくを作る研究しており、産業化への動きが急速に進んでいる。

中国の養蚕農家人口は2000万人以上だ。蚕と桑が先端科学の成果を取り入れて現代産業のシステムに組み入れて市場のニーズに対応すれば、新たな「絹の道」、すなわち「新シルクロード」はますます広くなるに違いない。(翻訳:Record China)

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