中国の金融市場改革開放の焦点は?~中国人民大学元副学長・中国資本市場研究院院長の呉暁秋氏

中国が改革開放政策に舵を切って45年。中国経済の成長は金融支援と切っても切れない関係にある。金融業界も「自己革命」の道を辿り、市場経済化、グローバル化の過程で、非流通株や金利、為替レートなど多くの改革を実施してきた。金融市場の改革における難しさは何か?中国の特色をどう取り入れるか?グローバルな影響力を高めるための次のステップは?中国人民大学元副学長で中国資本市場研究院院長の呉暁秋氏は、中国新聞社のインタビューで、金融モデルの選択にあたって改革の過程で議論が別れ続けている点、また、中国の金融市場での国際的影響力向上には人民元の自由化・国際化の推進が必要な点等について語った。

中国新聞社:自身の研究経験から見て、中国の金融市場、特に資本市場の改革開放は全体の改革開放にとってどのような意義があったか。また改革開放45年の中で金融市場の改革開放はどのような役割を果たしてきたか?

呉氏:資本市場の創設、発展、改革開放は、中国の金融市場の改革開放、経済改革にあたり重要な要素の一つである。資本市場に関しては、深圳証券取引所と上海証券取引所の設立から33年、市場規制の観点から3つの歴史的段階を経てきた。一段階目は2つの取引所が設立されてから2000年まで。この10年間、中国の資本市場は創設期に当たり、行政許認可制度と呼ばれる発行制度を実施し、行政が金融リソースの配分を行った。二段階目は21世紀に入ってからの10年間。行政主体の許認可制度から一部に市場要素を採り入れ、専門家による上場審査が行われ、適切な企業の資本市場への参入を可能にした。これは改革において大きな意義があったと思う。三段階目は2019年から現在。本格的な登録制の時代に入り、市場主導で金融リソースの配分で市場が重要な役割を担う方向に向かっている。

市場重視の改革と段階的な開放により、ゼロから始まった資本市場は現在では上場企業が5,000社を超え、時価総額は約85兆元。上場企業の中では科学・テクノロジー企業が重要な地位を占めるようになり、資本市場は中国経済の発展に大きく貢献してきた。

中国新聞社:近年、中国の金融市場改革開放は一段と深化している。改革開放45周年の節目にあたり、次の金融市場改革開放はどこに焦点を当てるべきか?焦点を当てる理由は何か?

呉氏:目下の登録制改革は、市場化に向けた全面的な改革の時期に到来していることを意味する。改革は発行制度だけでなく、M&A、再編、取引制度、情報開示、規制制度、法律モデル等も含まれる。今後、市場重視の改革を継続的に改善すると同時に、法治水準を向上させなければならず、市場重視の改革と現在の市場経済にマッチした法規制を整備することが非常に重要となる。同時に、上場廃止メカニズムの役割を高め、虚偽の情報開示や不正上場などの罰則を強化しなければならない。

法治という基礎のうえに、中国の資本市場の国際化、対外開放を一段と推進することが今後の焦点である。

中国新聞社:中国の金融分野の専門家として初めて証券投資分野の博士指導教官となったが、45年が経過した今、中国の金融市場の改革開放の過程で克服すべき困難は何か?

呉氏:中国の金融モデルは一体どうあるべきかという問題は常に議論が分かれるところである。一つ目は、市場主導の現代的な金融システムを望むか、伝統的な金融機関・商業銀行が支配する金融システムを望むか。この2つには根本的な違いがある。二つ目は、開放の過程において資本フローが自由になり、為替レートが市場需給で決定されるような金融モデルを作るべきかどうか。この2点は中国の今後の金融の発展・改革モデル、目標を選択するにあたり極めて重要である。

私の理解では、現代の金融システムとは、高度に市場化され、開放され、法治化され、国際化された市場で、そこでは資本は自由に流れ、為替レートは市場の需給によって決定される。近代的な金融システムはオープンでなければならず、「半オープン、半クローズ」な市場は近代的な金融システムとは言えない。

改革の難しさについては複数ある。一つ目は人民元の自由化・国際化をどのように推進するか。二つ目はハイテクに絡んだニューエコノミー分野に対して金融が真に役立つものにするにはどうすべきか。三つ目は、資本市場をより成長させ、真の資産管理能力を持つ資産を形成する方法。四つ目は中国の資本市場の規制能力をいかに最適化するか。五つ目はシステミック・リスクとは何かを正確に理解し、システミックな金融リスクを発生させないための最低ラインを維持することである。

中国新聞社:過去45年間で、最も印象に残っている金融部門の改革開放は何か?その理由は?

呉氏:個人的に最も重要で、既に完了したのは非流通株改革だと思う。1990年代末から2005年5月1日までは、資本市場では上場企業の構造が不均衡で、需要と供給の不一致があった。これが資本市場、上場企業の発展を制限する構造的な問題となっていた。かつては、国有企業の株式が上場・流通することは国有資産の流失であると考えられていたため、国有株は非流通だった。非流通株改革がスタートする前の1年ほど我々は世論への準備、理論研究、制度設計等を行った。

大規模で敏感な改革で、実施が難しいものだったため、当時、私を含む専門家グループが、非流通改革の必要性を説き、市場のすべての関係者が納得できる改革プログラムを設計した。また試行企業を探すのに多くの時間を費やした。非流通改革が完了していなければ、中国の資本市場は今日の姿にはなっていなかっただろうし、完全な登録制を推し進めることもできなかったに違いない。資本市場の改革の遂行は、非流通株改革を完了させることが前提である。

中国新聞社:2023年以降、「中国の特色あるバリュエーションシステム」に市場の関心が集まった。どのように「中国の特性あるバリュエーションシステム」を構築するべきか?

呉氏:欧米の成熟した資本評価理論と比較して、中国市場は文化、法律、制度が異なり、これらの3つの要素は中国の評価理論の変遷に大きな役割を果たしている。中国の特色あるバリュエーションシステムを構築するためには、一方では、中国要素に基づく評価理論体系を研究すると同時に、成熟市場から学び、研究する必要がある。


中国新聞社:中国の金融市場は現在、世界の中でどのような位置にあるのか?今後、中国の金融市場はどのように世界で影響力を高めていくのか?

呉氏:率直に言って、経済に比べ、金融市場の国際的影響力は非常に低い。一国の金融市場の国際的影響力を示す重要なもののひとつに、自国通貨の影響力がある。人民元は世界で最も信用力のある通貨の一つである。この点で人民元は米ドル、ユーロ、英ポンド、日本円といった国際化された通貨に全く見劣りしないが、人民元はまだ完全に自由化されていない。このため、自国の信用力が高いにもかかわらず、その影響力はまだ限定的である。人民元の市場化改革はなお進行中だ。人民元が完全に自由に取引できるようになった後、外貨準備がリスクを許容できるほど十分なのか等、不安要素を取り除くことが、人民元の自由化・国際化のための基礎条件といえる。例えば、法治体系を整えて市場に信頼を与え、為替市場の基盤を確立すると同時に、中国の資本市場における外国人投資家の比率を高め、人民元建て資産の世界的影響力を強化することが必要である。この一連の行動は、人民元の自由化・国際化の推進、金融市場の国際的影響力の向上のうえで非常に重要である。

中国の金融市場が「半オープン、半クローズ」の状態を長く続けることはできない。目下、外部環境が必ずしも良い状況ではない。金融分野の開放にはより良い外部環境が必要である。我々は、経済成長は外部からの刺激なしには達成できないことを認識し、開放的で国際的な視野を持たなければならない。したがって、国の経済発展と近代化の過程において、外部市場の重要性を深く理解することが重要である。

 

呉暁秋氏プロフィール
1959年2月生まれ。江西省于江市出身。中国資本市場研究院院長。著名なエコノミストで、金融・証券研究の専門家でもある。中国人民大学副学長、金融証券研究所所長、金融学科教授、博士課程指導教官、教育部長江学者特別教授、国務院学位委員会学科評議メンバー、中国金融学会常務理事などを歴任。中国の証券理論研究、証券教育の先駆者で、中国で最も早く証券研究の博士課程学生を育成した指導者でもある。

 

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