AIが翻訳の未来に与える影響とは

―― 北京語言大学高級翻訳学院名誉院長・劉和平氏に聞く

AIが翻訳の未来に与える影響とは

最近、人工知能(AI)関連技術が飛躍を遂げている。AI翻訳のアプリやソフトも増えてきた。グーグル翻訳など近年広まっているソフト以外にも、ChatGPTなどの新しいツールが翻訳に応用され、非常に正確で自然な訳文を生成するようになっている。AIは翻訳にどう影響するのか。このテーマについて、北京語言大学高級翻訳学院の劉和平(リウ・ホーピン)・名誉院長にパリで話をうかがった。

【プロフィール】
劉和平(リウ・ホーピン)
北京語言大学高級翻訳学院名誉院長・教授、パリ高等翻訳学院翻訳学博士、フランス教育功労勲章受賞者、中国翻訳学界の権威である。「冬季オリンピックのための各言語専門用語データバンク構築とアプリ開発」プロジェクトの責任者を務める。主な研究テーマは翻訳学、翻訳理論と教育、中仏異文化研究。

 

記者:翻訳の分野でのAI利用が増えてきました。特にChatGPTなど新技術の影響が大きくなっています。AIは今後、人間による翻訳に大きなインパクトを与え得るでしょうか。

劉和平:私は、AIの発展は携帯電話に似ていると思います。携帯電話は最初、通話機能しかありませんでした。技術が発達し、その機能はどんどん増えましたが、いまでも人間に取って代わることはできません。AIも同じだと思います。ChatGPTは人間による翻訳にインパクトを与えると考えられていますが、技術が多くの支援を提供できても、人間の代わりになるわけではありません。人間も同時に進歩しているのです。翻訳の分野では、AIは多くのサービスを提供しています。人によって翻訳レベルは違い、ある言語の翻訳について、ある人のレベルがAIに及ばなければ、その人の仕事はAIに取って代わられるでしょう。将来必要になるのは、もっとハイレベルな翻訳です。つまり、原文の基本的な情報を訳すだけでなく、原文の情感をも翻訳できるレベルです。私はChatGPTを使い、様々なテストをしてみました。原文を一定のレベルで翻訳でき、文法的な間違いはありませんが、こうしたAIの訳文には情感がありません。AIの訳文は原文の喜怒哀楽を完全には、少なくとも今は表現することができません。人間による翻訳は「創造」と「情感」について、発展の余地があります。

記者:世間には、人間による翻訳は将来、本当にAIに取って代わられるのではないかとの懸念があります。

劉和平:現在、翻訳を専攻している学生や親御さんも、また世論も同様に心配していますが、私個人はその心配は必要ないと考えます。AI翻訳は、永久に人間に取って代わることはできません。私たちは、かつて原稿用紙を使って文章を書いていましたが、その後はパソコン、さらには音声認識技術を使うようになりました。技術の進歩に伴って、生産力は絶えず向上し、誰も昔の原稿用紙の時代に戻りたいとは思いません。ですから、若い学生たちには未来に向かい、技術を習得して、人間としての価値を発揮してほしいと思います。将来、翻訳の90%はソフトがおこなうかもしれませんが、残りの10%はより高いレベルの人がおこないます。結局、「最後の1キロメートル」の翻訳は人がする必要があります。したがって、翻訳者を育成する際の要求はますます高くなるでしょう。AIの技術は日進月歩なので、私はリタイアしてもこの分野を引き続き学び、研究しています。試験をしてみて、ChatGPTの翻訳にはどんな不足があるか、その不足に対する私たち人間の優位性は何かを考え、そこからAI翻訳は人間にはかなわないとの結論に至りました。

記者:たとえば文学の翻訳であれば、AIは劉先生の代わりになれるでしょうか。

劉和平:AIはすでに文学の翻訳をしていますが、訳文はとても平坦です。作者が文学作品を通して表現しようとする情感を、AIは訳せません。私は学生に、技術の発展を怖れる必要はない、やるべきことは自分の能力を高めることだと話しています。AIをうまく利用し、この技術によって翻訳に新たな翼を与えることで、私たちはより高く飛べるのです。

記者:2018年に中国外文局と科大訊飛〔アイフライテック〕が協力し、AI翻訳プラットフォームを構築しました。アメリカも巨額の投資をしています。先生は、現在のAI翻訳プラットフォームのレベルをどう見ていますか。

劉和平:以前、私はグーグル翻訳をよく使っていました。中国語、英語、フランス語などを相互に翻訳したのですが、外国のソフトはヨーロッパ言語ならば、かなりうまく訳します。現在、学生たちはDeepLをよく使っており、品質もまあまあですが、どの程度までできるようになるのかは、まだ検討が必要です。結局、AI翻訳プラットフォームは、ヨーロッパ言語相互の翻訳は質が高いのですが、東西の言語間の翻訳は完成度が落ちるのです。プラットフォームの訳文の基本的な問題はまわりくどいこと、フレーズのつながりや論理性が弱いことです。文法的な間違いがなくても、訳文全体から受ける感じが、やはりぎこちないのです。

2019年7月、科大訊飛の代表団が訊飛の翻訳機やタブレットなどのAI製品と提携パートナーの AI ロボットを豪中博覧会(メルボルン)に出展し、科大訊飛と協力企業のAI分野における成果を紹介した。撮影/張暁理

(記事提供:中国新聞社Cns)

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