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福建省随一の経済都市泉州が世界遺産登録②

製造業による街興しで一変 昨年10月9日、中国共産党泉州市第13回代表大会では、海のシルクロードの建設および世界遺産モデル都市の創出という目標が提起された。大会の報告には「海のシルクロードの総合ハブとなり、経済と貿易を結び付け、文化をアピールし、都市と都市をつなぐ重要な門戸の建設に尽力する。東南アジアに向けた工業・商業の中心を構築するとともに、中華海洋文明を現在進行形で継承し、世界遺産保護モデル都市を建設し、『漲海声中万国商〔万国の商人、波音と共に来たりて賑わう〕』の新たな繁栄を蘇らせる」とある。 こうした目標は遺産が映し出す泉州の特質――古から続く商業都市であるという点を物語っている。「泉州は人が多く土地は痩せ、耕したくとも開墾する土地とてない。南部には海が見渡す限り広がり、異国に通じる船が毎年造られている」。宋代の謝履が描いた『泉南歌』を読むと、泉州の地理的環境により貿易ビジネスが泉州人のDNAに深く刻み込まれたことが分かる。改革開放後、泉州人に備わる天性のビジネスセンスは瞬く間に呼び覚まされ、長らく陰を潜めていた大商業都市が再び姿を現した。 中央政府は1979年、福建省と広東省を対外開放試験区に定めた。両省の対外経済活動には特殊政策とフレキシブルな措置が講じられ、大きな主導権を与えることで他地域に先んじて経済をできるだけ早く発展させるとした。宋元時代より培われた開放と包容という同市の性格は改革開放の精神ともぴたりと合致し、泉州人はまさに水を得た魚のようになった。 泉州の対外開放の初期においてはその外資に対する寛容さがプラスに働いた。改革開放後に泉州市外資弁公室主任を務めた陳民団氏は、当時泉州は泉州戸籍を持つ大勢の華僑の力を借り「三来一補〔委託加工貿易+補償貿易〕を展開し、「部品雑貨で巨大市場と多額の外貨を獲得する」構図を創り上げたとふりかえる。 泉州政府は当時、香港、台湾、東南アジアへ積極的に人員を派遣し、華僑や香港・マカオ在住の泉州人が故郷で投資をするよう促した。華僑は泉州の優遇政策を活用し、合弁工場から独資工場に到るまで全国的な有名企業を同市で数多く設立している。フィリピン華僑である林国良氏は1982年に泉州に戻り「泉州電視機廠〔テレビ工場〕」を設立。生産に当たっては現地の協力企業である泉州電子工業公司の工場や工員を利用したという。中国のテレビ所有台数は当時きわめて少なく、初回生産の数百台は瞬く間に全国に販売されていった。 海外の紡績業界である程度成功していた華僑たちが泉州最初期の服飾業界をリードしたが、泉州のアパレル業界が全国的にも評判が良いのは、やはり現地人の市場経済についての冴え渡るセンスによるところが大きかった。人々がまだ生産にしか目を向けていない頃、彼らは広告、宣伝、ブランドによる効果についてすでに理解していた。20世紀終盤、中央テレビの5チャンネルでは一時、泉州のスポーツブランドのCMがひっきりなしに流れていたという。ブランドマーケティングはまずスポーツウェア産業において抜群の効果を発揮し、その他の産業もこれに続き、同じ手法で規模を拡大していった。 時代は移ろい、現代の経済発展レベルにおいてはすでにある種の逆転が起きている。かつての海外市場は多くの分野ですでに中国本土より劣っているほか、母国で投資した華僑は第二世代、第三世代へと世代交代を果たした。今後いかに華僑の力を再び借り本土の経済に新たな活力を注ぐかが、沿海部各省が抱える新たな課題となっている。 迫られる産業構造転換 「努力してこそはじめて成功する」泉州人は、徒手空拳で中国民間経済の奇跡を生み出した。昨年の最新データによれば、全国の経済規模トップ20の都市のうち、泉州の民間経済の割合は最も高く81・5%に達しており、紡績服飾、製靴、建材・住宅関連用品、石油化工、機械設備、食品飲料、工芸製品、電子情報、製紙・印刷からなる9件の1000億元クラスの産業クラスターを抱えている。 これらのほとんどが既存産業だが、一昨年から続く新型コロナウイルス拡大は泉州の生活用品・消耗品を主とする産業構造に重大な打撃を与え、GDPは2020年第1四半期に10・3%下落した。最終的には年間成長率2・9%にまで回復したものの、福建省全体の3・3%を下回る結果に終わった。 泉州の産業計画においては「テクノロジーイノベーション」「デジタル化」などが頻出ワードとなっており、同市の強みである製造業の構造転換と高度化に対する緊迫感が伝わってくる。改革開放初期における外資に対する優遇と同様、泉州は現在、テクノロジー分野において政策優遇を最大限に適用しており、3~5年でテクノロジーに対する投資、ハイテク企業、ハイエンド研究開発プラットフォーム、ハイレベル人材の倍増の実現に努めると同時に、全省に先んじてイノベーション・バウチャー〔ベンチャー企業と各種研究機関の連携を促進する利用券〕を配布し、企業の科学技術関連サービスの利用を補助している。 構造転換に関する泉州の焦りは、新たな時代背景のもと従来の優位性が弱まっているためと洪氏は説明する。泉州は当初、企業間の良好な産業チェーンを構築して個人プレーの構造を改め、独自のエリアアドバンテージを形成していた。製造業とサービス業は産業チェーンのなかで緊密に結びついており、これが泉州の民間経済の最も重要な経験則だと洪氏は考える。例えば、泉州にかつて存在した繊維産業ビルやファッションビルは原材料と衣料既製品の専門市場であり、こうした集積効果が産業間の流通を加速させ、1兆元クラスの産業チェーンの誕生を促した。しかし時代の流れとともに状況も変わり、繊維・ファッションビルを訪れる顧客が減り、インターネットショップの流通量が日増しに増加しているなか、サービス業の構造転換が進んでいる。 「工業化に続くポスト工業化の時代において工業にいかに新たな活力を注入していくか、これこそ現在のサービス業が解決すべき問題だ」と洪氏は語る。泉州は第14次5カ年計画に際し、デジタルサービス、商業・貿易・物流、文化観光、健康サービス、金融サービスを重要な基盤とする近代的なサービス業体系の構築を提起した。なかでもデジタルサービスと製造業の深い融合の推進や、周辺エリアからさらに全国へと広がるビジネスセンターと宅配便物流ターミナルの建設といったアクションの意図は、すべて製造業とサービス業の再連携を図り、相互補完を実現することにある。 第14次5カ年計画ではすでにテクノロジーイノベーションの展開が既存の製造業より優先されている。これからの泉州はアパレル工場にシューズ工場が隣接するだけの都市ではない。環泉州湾イノベーションセンターでイノベーション集積エリアを形成する。泉州ソフトウエアパーク・華僑大学・洛江ハイテク企業クラスターを直結させ、大規模な研究所やプラットフォームを集中的に建設していく計画だ。泉州科学城の建設計画も加速しており、時空産業、スマート情報技術などの新たな業種の配置を進めていく。 泉州を近代的中核都市にする青写真には、いまなお一貫して海洋文化に特有の開放と包容の精神が流れている。対外開放の深化を背景に再度の大航海に乗り出し、沿線国家・地域との協力を深めていくことで全方位型対外開放の新たな形をつくる――それが「21世紀海のシルクロード」の先行エリアであり要衝たらんとしている泉州の狙いだ。 『中国新聞週刊』記者/倪偉 翻訳/神部明果 /CNSphoto