中国と西洋の家庭観の違いとは

家庭は個人と社会の橋渡しをする社会の基本単位である。中国と西洋の家庭観は、社会環境や政治経済の条件が異なるため、同じところもあればそれぞれの特徴もある。中国と西洋の家庭観を知ることは、お互いの文化を学び、交流する助けになり、世界文明の共同発展を促進するだろう。

文/尼山世界儒学センター孟子研究院院長・研究員 陳暁霞 翻訳/及川佳織

 中国も西洋も、家庭は幸福の実現を目的とし、家庭という細胞の健康を確保し、そのメンバーの生活を守る。家庭は、倫理の最小単位として「個人」間の関係、責任、愛を育てる上で重要な役割を果たしている。中国と西洋には共通した教育観があり、同じように子どもの社会性を育み、社会の適格な一員に育てている。

 中国と西洋では家庭観に様々な違いがあるが、その根源、意味、類型、教育の重点などいくつかの面で比較してみたい。

2014年1月、四川からの出稼ぎ労働者・趙虎さんと妻の仕珍さんが年越しのために家族写真を持って帰郷した。撮影 / 韋亮

 中国では古代から集団としての家庭という考え方を重視し、そういった価値観を作ってきた。『周易・説卦』には、「乾は天なり。故に父と称す。坤は地なり。故に母と称す」とある。「天」と「地」は人類の父母であり、天下は一家である。『論語・顔淵』には、「四海の内は、皆兄弟なり」とある。孟子は「家族を愛するという此の心をとりあげて、広く世の中の人に施した。したがって恩愛の心を推し広めれば世界の人を安んずることができ、恩愛の心を推し広めなければ自分の妻子さえ、安んずることができない」と言う。中国は家族という集団を基本として重視し、個人を集団に溶け込ませ、個人と家庭・社会・国家の運命を一致させてきた。中国文化において、家庭は「生生」〔生きること〕の媒体であり、「一以貫之」〔貫かれる唯一の道理〕の本体であり、「配天祭祖」〔天祖先を祀る〕の基礎であり、「報本返新」〔本に報いて新へ帰る〕の始まりであり、宇宙の秩序と社会生活はみな家庭を巡って展開する。

 西洋の地理や気候などの環境は、商業文明を栄えさせ、理性や勇気や独立した個性を育てた。彼らは個人の権力や財産所有権を重んじ、理性の価値を強調した。キリスト教において、イエス・キリストは、父母や兄弟姉妹を離れて主の懐に入り、信仰の共同体を作ろうと呼びかける。ロックによれば、子どもは神の生み出したもので、父母は子どもの保護者でしかない。西洋で確立された「個人−主体」という現代的哲学に基づき、個人主義は長く「個人」の自己実現に重きを置き、「個人」間の相互関係を軽視してきた。人の依存関係は弱まり、個人の理性と権力が一貫して強化された。

バージニア州アーリントン郡のエドワードさん夫妻と息子。撮影/ 邱江波

 中国人は「利他の中で利己を実現する」という価値を目指してきた。家庭が人々の生活の中心であり、肉親の情や血縁が一番しっかりした社会的絆である。父母は子どもを養い、教育し、子どもは父母の面倒を見て、独特の「孝」という文化を創りだした。家族としての責任は自由より重んじられ、義務が権利より先に立ち、集団が個人より上にある。西洋社会は個人の自由、権利、尊厳を尊重し、愛欲、信仰の愛、友愛を重視し、家庭は個人を基本とし、「利己こそが利他」という価値観を守ってきた。西洋は個人の理性をより重視し、自身の価値を重視する。個人は家庭や社会の主人公であり、往々にして個人の利益が重要な要素となり、家庭は二次的なものとなる。 

 中国の家庭は父子文化であり、『易経・家人卦』には「家の中には威厳のある君主が居て、それは父母である。父は父らしく子は子らしく、兄は兄らしく弟は弟らしく、夫は夫らしく妻は妻らしく、各々その道を固く守れば、家の中は正しく治まる。先ず家の中をしっかり治めてこそ天下も治まる」と言う。家族はそれぞれの立場を守り責任を果たすべきなのである。男女間は婚姻を結び、家庭を作り、家庭の倫理を守る。夫婦は互いに敬い、夫はおだやかに、妻は優しく、それぞれ自分の権力を捨てて、調和のとれた統一を実現する。西洋の家庭は夫婦が中心であり、夫婦関係と男女の自然な情を重んじる。夫婦間の考えや感じ方を婚姻の目的とし、結婚は両性が幸せになる権利を行使するためのもので、家庭は完全に個人の問題であり、外部が干渉することを許さない。個人の自由と権利が家庭より高い地位にあり、夫婦がそれぞれ自由と平等の権利を享受することが主張されている。

 子どもに対する中国の家庭教育の中心は「道」である。伝統的な家庭観では、世界は天、地、人の「三才」から成り、それがすべて「1つの世界」にある。「道は人から離れたところにあるのではない」、つまり道とは身近なところから探求するものであり、まずは夫婦、親子という家庭から始める。『周易』は「家を正しくして天下定まる」と言った。家道が正しければ、天下は安定する。孔子の庭訓〔家庭内での教育〕などは、家風を伝えるための手本である。家風は個人の運命を決定し、家の盛衰に影響を与える。西洋の家庭は知識の蓄積を重視し、子どもの興味と創造力を育てることが中心で、自然に対する子どもの好奇心や創造力を開発し、成長と愛を重視した教育をする。父母は励ましの言葉で子どもを褒め、激励し、コミュニケーションによって子どもの心理的欲求を探る。

2019年10月、写真展『中国人家』が北京市の王府井大街で開かれた。1968年に撮られた家族写真を見る参観者。撮影 / 賈天勇

 つまり、中国の家庭は家族の調和をより強調し、西洋の家庭は個人の権利の保護をより強調する。「それぞれが理想を追求し、他人の理想を尊重し、理想を共有する」〔中国の著名な社会学者、費孝通の言葉〕。中国と西洋がそれぞれの文化において家庭観の違いがあることを理解したうえで、交流し、互いに学ぶことで、人類の共同発展を促進することができるだろう。

【プロフィール】

陳暁霞(チェン・シアオシア)

尼山世界儒学センター孟子研究院党委書記、院長、研究員。複数の大学で特任教授を務める。長年にわたり歴史文化、儒学発展史、文化産業の発展、青少年教育を研究し、特に儒家文化など伝統文化の新しい発展に功績がある。国家、省、市の社会科学プロジェクト20件以上を主宰。著書に『新時代の伝統文化の革新的発展研究』『社会道徳風潮研究——郷村振興戦略の視点から』『游学三孔』など8冊がある。

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