シルクロード沿線・乾燥地帯の「砂漠化問題」―中国人専門家が状況を解説
どこまでも連なる砂丘。ラクダの背に荷を乗せた隊商が、砂丘のふもとをゆっくりと通過していく――。そんなシルクロードのイメージは、私たちを美しい歴史ロマンの世界に誘う。しかし現実の砂漠は過酷な世界だ。また、「砂漠化の進行」などといった、不安を覚えずにはいられない言葉を耳にすることもある。中国科学院西北生態環境資源研究院研究員の王濤氏は、砂漠環境や砂漠化の過程とその防止や復元の研究に40年以上も取り組んできた。王氏はこのほど中国メディアの中国新聞社の取材に応じてユーラシア内陸の砂漠の過去と現在について説明した。以下は王氏の言葉に若干の説明内容を追加するなどで再構成したものだ。
■砂漠の緑化は2000年以上も続けられてきた
いわゆるシルクロードはユーラシア内陸の乾燥地帯を東西に貫く道で、点在するオアシスを経由する。一般には19世紀に活躍したドイツの地理学者であるリヒトホーフェンの提唱により出現した概念とされている。
シルクロードが通過する地域は古くから荒涼たる砂漠に覆われ、自然環境は劣悪だった。生産性が低ければ、人は水や草のある場所を求めて移動するしかない。定住も農業を営むことも困難だ。しかし、人の技術力は向上していくものだ。例えば人々は徐々に、水の流れを制御できるようになっていった。そうすれば、緑に覆われるオアシスの面積を拡大できる。農地や果樹園を計画的に広げていける。さらには、水が豊富な山麓から地下を通る送水管を作ることもした。水が到達した場所では、人工オアシスの造営が可能だ。
人々は、風に舞い上げられた砂がオアシスの緑を埋めてしまう現象を低減する技術も獲得していった。シルクロード沿線のオアシスは発展し続けた。現在のオアシス、つまり緑で覆われる土地の面積は、2000年あまり前よりも、ずっと大きい。
■目指すべきは「自然の征服」ではなく「自然との共生」
中国領内でシルクロードが通過しているのは陝西、甘粛、寧夏、青海、新疆などで、いずれも乾燥地帯だ。砂漠化現象は人々の生存を左右する問題であり、中国の生態の安全と経済社会の発展にとっての脅威だ。しかしこれらの地域は、広大な土地、豊富な太陽エネルギーや鉱物資源というよい面も備えている。
中華人民共和国は当初から「砂を防ぎ、砂を制御。砂漠をオアシスに、砂漠を良田に」を目標としてきた。中国科学院瀋陽林業土壌研究所は1952年に中国東北地方の「風砂被害」の防止策を研究し始め、1954年には内モンゴル自治区の包頭市と甘粛省蘭州市を結ぶ鉄道の砂被害防止の研究を始めた。
中国は現在までに、砂漠と砂漠化の拡大を効果的に阻止できるようになった。「国連砂漠化対処条約」は2030年までに世界の干ばつ・半干ばつ状態の土地の増加をゼロにする、あるいはそのような土地に緑を戻す目標を掲げているが、中国は同目標を前倒しで達成した。
中国は数十年の努力を通じて、自国内の砂漠化について「進行-急速進行-部分的逆転-全体的抑止」の時系列を成立させた。政府も企業も民衆も力を合わせた。かつての「砂が人を追い詰める」は、現在は「緑が広がり砂が退く」の状態になった。
乾燥地域の緑化とは、人工的な「オアシス化」だ。しかし人が「オアシス化」の力を注ぎ込んでも、同時に「砂漠化の力」も働いていることは重要だ。この2つの力は相互に影響し合う。
「オアシス化」を広い範囲で出現させ安定させれば、生産と生態の環境は大きく改善する。その際に、水資源の開発と管理は鍵となる。過度な開発を行い、非合理的な水利用をしたのでは、せっかく築いた人工オアシスの環境は悪化する。砂漠に逆戻りするかもしれない。
つまり、人による一方的かつ徹底的な「自然の征服」はありえない話だ。「砂漠化」の力と「オアシス化」の力の二つが常に存在していることを忘れてはならない。合理的な水の調整や使用が大切だ。そうすれば、人類は自然と調和して共生できる。
■自国の砂漠開発で得た経験や技術を乾燥地域の国に提供
改革開放が始まって以来、中国は徐々に自国の「砂漠対策」情報を国際社会に発信するようになった。また国連環境計画は1987年に、中国科学院蘭州砂漠研究所内に「国際砂漠化防止研究・研修センター」を設立した。ここではほぼ毎年、砂漠化の害を受けている発展途上国の要員を研修クラスに招いて、学術や技術の交流をしたり、中国が重要な砂漠対策を実施した現地に足を運んで見学してもらったりしている。
2014年には中国科学院中央アジア生態・環境センターが設立された。同センターは中央アジアの多くの国に支部を設立して、シルクロード沿線諸国の生態環境保護、持続可能な資源利用、農業の発展、鉱物資源探査、災害モニタリングと早期警戒などの分野における科学技術協力と人材育成について積極的な役割を果たしている。
中国は砂漠問題関連で一部の国への技術支援もしている。中国科学院は過去三十数年間、トルクメニスタン、ウズベキスタン、キルギス、カザフスタン、イラン、エジプト、シリア、イスラエル、サウジアラビア、モンゴルなどのシルクロード沿いの主要国と砂漠化防止について理念と技術を提供し、協力研究と実践を展開してきた。
中国が技術を完全に独力で開発したと言うつもりはない。中国が現在、シルクロード沿線国に広めている流砂固定技術は、元はと言えばソ連時代のトルクメニスタン砂漠研究所で開発されたものだ。中国はこの技術を大いに発展させ、人工砂固定植生の栽培など体系化された砂防・治砂技術にまで拡張した。そしてその成果を世界と分かち合っている。
砂にとって国境は存在しない。砂塵嵐(さじんあらし)が発生すれば、砂は極めて遠方の国にも飛んでいく。生態管理も一地域や一国だけで完結するものではない。世界各国は砂漠化問題と対峙するために協力を強化し、共通の認識を得た上で、共に力を発揮していかねばならない。
砂漠化防止や砂を管理する技術は地域の事情に対応する必要がある。また、砂漠化モニタリングシステムの建設や法体系も樹立、砂漠化防止によって生態、経済、社会のいずれもがよい効果を得るようにするなどは、将来にわたって検討する価値のある重要な議題だ。(翻訳:record china)