「地球の腎臓」を守るために、中国には妙案があるのだろうか

記者:湿地はなぜ「地球の腎臓」「生命のゆりかご」「生物の宝庫」と呼ばれるのでしょうか。湿地を守ることがなぜ重要なのでしょうか。

戴永務:湿地とは水を主な要素として環境と動植物を制御する生態系のひとつです。自然界では生物多様性をもつ、生態系機能がより高いものとして、人類社会の発展と深く関わっており、森林、海洋と並んで世界3大生態系と呼ばれています。

 湿地は「地球の腎臓」です。二酸化炭素を吸収して、地球温暖化の緩和と汚染の削減に貢献しています。その炭素は泥炭地だけでも世界中の森林に貯えられているものの2倍にも及びます。

 湿地は「生命のゆりかご」です。最初の生命は海で誕生したのです。35億年前、アオコなど古代の原生生物が水中で大量に繁殖していましたが、湿地はまさに地球の水資源を調節する役割を担って、数多くの生き物を育んできました。

 湿地は「生物の宝庫」です。湿地は地球の陸地表面積の約6%しか占めていませんが、植物や動物の40%が湿地で生息・繁殖したりしています。

 水陸の相互作用によって形成された生態系として、湿地は人類と深く関わっています。基本的な生態系サービスを提供したり、人類、気候およびその他の生態系にとって極めて重要な役割を果たしたりしています。世界中の10億人以上の人々、すなわち約8人に1人が湿地に依存して生活しています。

記者:1992年にラムサール条約に加盟以来、中国の湿地保護はどのような過程を経てきたのでしょうか。中国の湿地保護の現状はどうなっていますか。

戴永務:ラムサール条約に加盟して以来、中国の湿地保護は4段階に分けて取り組んできました。1992年から2003年は全面的に基礎調査を行い、2004年から2015年は緊急性の高い湿地の保護活動を行いました。2016年から2021年は湿地の包括的保全を実施しており、2022年6月1日から「中華人民共和国湿地保護法」が施行されて、中国の湿地保護は質の高い新たな発展段階を迎えました。

 現在、中国はすでに64ヶ所の国際重要湿地を指定しており、その総面積は732万ヘクタールあります。29ヶ所の国家重要湿地を認定し、602ヶ所の湿地自然保護区、1600ヶ所以上の湿地公園を設立し、湿地保護率は52.65%に達しています。

 第3回全国湿地資源調査によると、中国の湿地総面積は2346.93万ヘクタールで、アジア1位、世界4位とのことです。

 2018年に開催されたラムサール条約第13回締約国会議では、世界7ヶ国の18都市が第1陣の国際湿地都市の称号を獲得していますが、その中で6都市が中国から選ばれました。中国は世界で唯一、全国湿地資源調査を3回も実施しており、泥炭地調査を行っている国です。

記者:湿地の保護に関しては、中国はどのような経験を積んできたのでしょうか。それは世界の湿地生態保護・修復を持続的に推進する上で、どのように参考にすることができるのでしょうか。

戴永務:中国は湿地の保護と修復を積極的に推進しており、湿地の生態状況は持続的に好転しています。世界第2位の経済体、世界有数の人口大国として、世界の湿地生態保護・修復を持続的に推進する上でお手本となっています。

 中国は湿地のグローバル・ガバナンスに積極的に参与しています。ラムサール条約常務委員会メンバーおよび科学技術委員会委員長として、中国は条約事務と規則の制定に深く参与し、幅広く国際協力と交流を行っています。そして、生態のグローバル・ガバナンスに中国の知恵と中国案を提供してきました。さらに中国は湿地の気候変動対応分野での対話交流と協力を強化し、気候変動対応の国際交渉プロセスに積極的に参加すると同時に、各種の対外援助訓練を行い、国際社会と手を携えてグローバル気候対策を推進しています。

 中国は法規制度体系を完備させ、法規保障の基礎を固めています。中国の28省(区・市)は相次いで湿地保護の法令を発表し、国と地方政府では「湿地保護修復制度案」と実施案を制定しました。戦略面では、中国政府は湿地のカーボンシンクを増やし、グリーン・低炭素な発展を推進することを生態文明建設の重要な構成部分とし、湿地保護を国の気候変動対応戦略に組み入れています。

 中国は制度上の優位性を十分に発揮し、政府の財政投入を拡大しています。2003年以来、中央政府は計198億元を投入し、4100件以上のプロジェクトを実施してきました。地方政府をけん引し、湿地生態保護・修復を共同で展開しました。

 中国は系統性や全体性を把握しており、湿地の管理体制を明確にし、行政部門間の協働ガバナンスを強化しています。中国の湿地保護は国家林業・草原局が中心となって、行政部門は各々の職責によって管理を分担しています。中国はすでに全国31省(区、市)で国レベルと地方レベルの湿地公園を設立し、その数は899ヶ所に達しました。そして240万ヘクタールの湿地を効果的に保護できており、500億元を超える地域の経済成長を促しました。

 中国は調査・モニタリングシステムを形成し、ハイテクの応用を強化しています。中国は世界で初めて3回の全国湿地資源調査を終えた国です。第3回全国国土調査では正式に湿地を1級地類に指定しました。各地で湿地調査・観測野外ステーション、リアルタイム監視・情報管理プラットフォームを構築しました。また徐々に国家林業草原感知システムを導入し、ハイテクにより観測と監督管理の一体化を実現しています。

記者:欧米諸国の湿地保護と修復はどのような成果を上げているのでしょうか。中国にとって何か参考になったものはありますか。

戴永務:欧米諸国は主に回復、再建、移転などの方法で湿地の復元と面積の拡大を行い、多くの成果をあげています。

 1つ目は湿地保護政策や法令を制定し、完備することです。例えば、EUは、「生息地指令」「鳥類指令」「水政策枠組み指令」等を制定しています。オーストラリアは『オーストラリア連邦政府湿地政策』などを公表しました。

 2つ目は、自然保護区や湿地公園(国立公園)など湿地の自然保護システムを構築することで、湿地の保護を強化することです。例えば、日本は都市の中心地に湿地公園を建設し、観光や科学研究などを含む多元的機能の開発を行っています。

 3つ目は自然修復あるいは人工的な措置により湿地生態系及びそのサービス機能を回復させることです。例えば、米国は教育とサービスの総合利用開発の方式を採用し、自然湿地の多機能性を利用し、湿地の退化を緩和しています。

 欧米諸国は地元の事情に合わせて適切な政策手段や市場ベースの手段を選択し、現地の湿地生態資源を合理的に利用し、湿地生態系の多面的な機能を発揮しています。多くの湿地保護と活用モデルは中国にとって参考になる価値があります。

 例えば、米国は市場ベースの手段を通じて湿地バンク、多様化湿地補償制度を確立し、企業や民間資本を湿地保護に投入するように招き寄せたり、全国民の環境教育を提唱して社会全体の生態環境意識を高めたりします。日本は現地の湿地保護政策を制定する際に民衆の自主性を十分に尊重し、政府、地方住民、企業、社会組織など各主体が力を合わせて協力しあい、湿地保護対策に協同で取り組んでいます。

 東西諸国は発展段階も、資源所有状況も、文化的背景も異なるため、湿地保護のモデルとメカニズムはそれぞれに長所があります。欧米諸国、特に先進国は湿地保護モデルの社会参加度がかなり高いのに対して、中国は湿地の保護と利用において制度的優位性、デジタル化などのハイテクの応用が強みです。中国と欧米の湿地の保護は互いに学ぶべきで、地域に応じた適切な方法や対策を施すべきだと思います。

記者:現在、世界の湿地保護はどのような課題に直面しているのでしょうか。われわれはどのようにその課題に対応し、湿地の保護と生態の修復、生物多様性の保護を共に推進すべきでしょうか。

戴永務:現在、世界の湿地は森林の3倍の速さで消滅しつつあり、1970年以降、世界の湿地の35%が消滅しました。

 世界の湿地保護が直面する課題は主に自然や人類活動によるものです。その中で、自然界からの挑戦は主に世界的な気候変動、極端な天候の増加による生態系の破壊を含んでいます。人間の活動による影響は人口増加、グローバル化の発展、地下水の過剰採掘などであり、各国の水文学的接続性、生態環境、水位と土壌の水飽和率、汚染度合を変化させることで、最終的に生物多様性に影響を与え、湿地生態系を変化させるおそれがあります。

 これらの課題に対応するためには、まず湿地保護の人類運命共同体を構築しなければなりません。「湿地保護運命共同体」の構築には、世界の協力とウィンウィンが不可欠であり、国際的に重要な湿地ネットワークを完備し、国際協力を強化し、生態系サービスの国境を越えた流通を促進しなければなりません。

 国境を越えて移動する鳥類を保護するため、中国政府は日本、オーストラリア政府と「二国間渡り鳥等保護条約・ 協定」を、ロシア政府とは「興凱湖湿地共同保護協定」を、ニュージーランド政府とはアカシギ、オオソバシギなど26種の水鳥とその生息地を保護する覚書をそれぞれ締結しました。

 第二に、市民参加度を高めることです。メディアの普及を通じて、湿地の機能を一般の人々に理解してもらい、積極的に湿地保護に参加してもらいます。公教育を通じて、より多くの人が湿地保護の受益者グループの一員になって、湿地が人類に生態系サービスを提供してくれることを理解できるようにします。一人一人が傍観者や、部外者、批評家ではなく、生態環境の保護者でありながら、建設者でも受益者でもあります。誰もが行動せずに口先だけの部外者でいられなくなります。

 第三に、経済と財政のインセンティブを実行することです。生態系サービス計画を実現するための気候変動対応戦略と補償を含む様々な制度改善によって、税制、認証、企業の社会的責任プロジェクトなどを通じて、湿地保護に資金を提供して、湿地保護を促進させます。

 第四に、湿地の多面的な価値を考えることです。湿地生態系サービス及びそれが人類の生計と福祉に与える重要性を重視すべきです。湿地効果はエネルギー、採掘、都市発展、観光といった分野に及んでいます。「ラムサール条約戦略計画」の指標の1つは、国際的に重要な湿地の生態系サービスの評価を求めることです。(完)
(翻訳:華僑大学外国語学院)

You may also like...

Leave a Reply

Your email address will not be published.