中国と欧州の専門家対談:人類はなぜ手を携えて「広大な星空」へ赴くのか
中国の宇宙飛行士の翟志剛氏、王亜平氏、叶光富氏は、4月16日に183日間の中国の宇宙ステーションでの滞在を終え、地球に無事帰還した。今年中に完成を予定している中国の宇宙ステーションは、国際社会に開かれた科学技術のプラットフォームとなるだろう。
広大な宇宙の探査と宇宙の平和利用は全人類の共同事業であり夢であるが、今後人類はどのように連携していけばいいのか。中国航天科工集団有限公司第二研究院の研究員であり国際宇宙航行連盟(IAF)宇宙輸送委員会副委員長の楊宇光氏とムーンビレッジ協会会長で持続可能な月面活動に関するグローバル専門家グループ(GEGSLA)事務局長であるジュゼッペ・レイバルディ氏との対談が行われた。
対談の概要は以下のとおり。
中新社記者:先ごろ、中国人宇宙飛行士3人が中国の宇宙ステーションでの183日間の「出張」を終え地球に帰還しましたが、3人の宇宙での活躍をどのように評価しますか。
ジュゼッペ・レイバルディ:中国の3人の宇宙飛行士は、中国の宇宙ステーションの最先端のモジュールを使ってすばらしい活躍をしてくれました。中国が欧米よりも宇宙技術開発の進捗が早いのは、特定の目標を実現するために、長期的な計画により、必要な行動全てを着実に実行しているからです。
国際宇宙ステーションは、数十回の飛行で10年以上の時間を費やして完成したのに対し、中国の宇宙ステーションは、数回の飛行で2〜3年しかかからず完成したことからわかるように、国際宇宙ステーションの経験を生かした最新鋭の宇宙ステーションなのです。
もちろん、宇宙ステーションの大きさや複雑さは異なりますが、国際宇宙ステーションのような大きな宇宙ステーションより「小型」宇宙ステーションの方が経済的で、効率的なのです。国際宇宙ステーションは1990年代に設計されましたが、中国の宇宙ステーションは約20年たってから設計されました。
楊宇光:3人の宇宙飛行士は無事に任務を終えました。これは、中国の宇宙ステーションの主要な技術検証段階が成功裏に終了したことを示しています。
最も中心的な任務は、宇宙飛行士の軌道上での滞在時間や健康で正常な状態で任務が行えるかどうかを検証することです。神舟11号は1か月、神舟12号は3か月、神舟13号は6か月、軌道上での滞在を達成しました。6か月間というのは宇宙ステーションを運用する宇宙飛行士の通常の滞在サイクルです。3人の宇宙飛行士は、宇宙ステーション内でフィットネス機器をつかった運動を継続し、帰還後の健康状態も良好です。
その次は、宇宙飛行士の宇宙での生活を維持するための基幹技術である環境制御と生命維持システムの検証です。宇宙飛行士が長期滞在する宇宙ステーションでは、地球から宇宙までの物資を輸送するコストがかかります。環境制御、生命維持技術により資源を再生利用します。たとえば、汗や尿などを純化して飲料水にして水資源を循環利用することです。これにより、貨物輸送の頻度を大幅に減らすことができるとともに、科学実験に必要なものを運ぶスペースをより広く確保できます。
このほかに、地球と宇宙間の最新の往復技術も検証します。中国の有人宇宙船が初めて高速帰還モードを採用し、これまで約1日かかっていた全行程を9時間余りで完了させました。加速の背後には、一連の複雑な技術やオペレーションがありました。
さらに、多くのコア技術が検証されました。神舟13号はコアモジュール「天和」との半径方向への自動ドッキングに成功しました。中国の宇宙ステーションのロボットアームによる初めての無人補給船天舟2号の移動に成功し、中国の宇宙飛行士が初めて手動の遠隔操作で天舟2号を宇宙ステーションにドッキングさせました。神舟13号の乗組員は2回の船外活動を成功させ、王亜平飛行士は中国の女性宇宙飛行士として船外活動の一歩を踏み出しました。神舟12号と神舟13号の乗組員は4回のべ8人が船外活動を行い、第2世代の船外活動用宇宙服の検証を行いました。
3人の宇宙飛行士は「宇宙教師」として、小中学生にすばらしい宇宙授業を2回行いました。宇宙授業は米国にも配信されました。これは、中国と米国の宇宙における協力は大きな可能性を秘めており、このことは多くの若者が手を携えて宇宙探査することへの励みになるに違いありません。
中新社記者:中国の宇宙ステーションは建設当初から世界に門戸を開いています。宇宙ステーションでの科学実験の第一弾として17か国の9つのプロジェクトが選ばれました。国際協力は人類の宇宙探査のためにどのような貢献ができますか。
ジュゼッペ・レイバルディ:宇宙探査は非常に困難で、持続可能な方法で推進するためには、国際協力が唯一現実的な方法です。中国は当初から宇宙ステーションを世界に開放してきましたが、これは非常に前向きなことです。国連宇宙局を含む多くの国や組織がこの実験に参加しており、一部の発展途上国も含まれています。このことは宇宙探査能力の構築にとって非常に重要なことです。
また、宇宙での国際協力は、地球での平和な生活を実現するために、国家間のよりよい相互理解を促進します。
楊宇光:中国の宇宙ステーションは、将来的に国際社会に開かれた科学技術のプラットフォームとなり、全人類に利益をもたらすでしょう。中国の宇宙ステーションには、各国のさまざまな科学実験を行うため、国際標準のインターフェースが装備されています。今回選ばれた9つのプロジェクトは始まりにすぎず、今後中国の宇宙ステーションでは多くの国際的な科学実験が行われ、より深いレベルでの国際協力が行われることになるでしょう。
中新社記者:広大な宇宙の探査や宇宙の平和利用は、全人類の共同事業であり夢であり、国籍、地域や人種を超えることができます。各国が手を携えて宇宙探査を行い、人類共通の宇宙資源を平和的に有効利用するためにはどのようにすればいいでしょうか。
ジュゼッペ・レイバルディ:国際協力が強化されており、これによりコスト削減が可能になり、ますます多くの国が宇宙技術を利用できるようになると、協力への信頼性がさらに重要になります。たとえば、月の探査と利用を例にとると、ムーンビレッジ協会の概念は、すべての国が協力する意思があるかぎり、各国が独自の計画をもって、この人類の並外れたプロジェクトに参加することを可能にします。したがって、情報共有、宇宙資源、スペースデブリ、相互運用性などの問題に関して各国が共通の公平な競争の場を持つよう、国連の枠組みの中で、月探査の調整メカニズムを確立する必要があります。
欧州宇宙機関と中国国家宇宙局は科学分野で多くの協力関係があります。一部の欧州の宇宙飛行士は中国で初期訓練を終えており、今後、欧州の宇宙飛行士が中国の宇宙ステーションで活動する可能性があります。宇宙協力の未来は国際的政治情勢次第ですが、このような国際協力が増えることを期待しています。
楊宇光:宇宙探査は、国際協力が不可欠です。国際協力によってコストや意思決定のハードルを下げ、各国の宇宙技術開発を促進し、そして全人類に利益をもたらすことができるのです。宇宙での国際協力は、今後ますます深まり、その範囲も広がっていくでしょう。
国際協力を展開することは、中国の宇宙開発では長年の伝統となっています。20世紀末に中国とブラジルの地球資源衛星01星を打ち上げました。嫦娥4号にはドイツ、スウエーデン、オランダ、サウジアラビアの科学装置が搭載されました。中国とヨーロッパ、中国とロシアは長期にわたる協力関係にあり、中国の宇宙飛行士が訓練のためモスクワを訪れ、中国とヨーロッパの宇宙飛行士が訓練のため双方の国を訪れたこともありました。中国とイタリアの協力による電磁環境モニター試験衛星「張衡1号」と中国とフランスによる海洋衛星の打ち上げにも成功しました。
中国の有人宇宙飛行の分野では、4つの段階で国際協力が行われています。第1段階は、共同実験で、これは現在最も重要な協力形態です。たとえば、神舟8号には、中国とドイツの共同宇宙生命科学実験用の装置が搭載されています。第2段階は、外国人宇宙飛行士の受け入れです。第3段階中国の宇宙ステーションへの外国の宇宙船の訪問です。第4段階は、中国の宇宙ステーションへの外国のモジュールのドッキングです。宇宙ステーション「天宮」には、拡張インターフェースが用意されており、3つのモジュールの構造に基づいて拡張モジュールをドッキングできる機能があります。将来的には必要に応じて、モジュールを「T型」構造から「干型」構造に拡張することも可能です。
中新社記者:ロシアとウクライナの衝突が続き、米国とロシアの対立が深まる中で、国際宇宙ステーションの運用を2030年まで延長することは可能でしょうか。今後、国際宇宙ステーションと中国の宇宙ステーションは、それぞれどのような役割を担っていくのでしょうか。宇宙飛行士の相互訪問は実現するでしょうか。
ジュゼッペ・レイバルディ:国際宇宙ステーションと中国の宇宙ステーションは、短期的に協力しながら、統計結果を増やすために科学的調査を実施することが可能です。微小重力研究の重要な課題は、統計結果が少ないことです。同じテーマについて並行して調査することで、統計データを増やし、より信頼性の高いデータを提供することができます。
軌道が異なるので技術的には複雑ですが、2つの宇宙ステーションの間で乗組員を交換する可能性はあります。現時点で、協力の最大の障害は、政治的な思惑です。国際宇宙ステーションが引退する前に、双方の宇宙飛行士が相互訪問できることを願っています。2030年以降は、民間の宇宙ステーションが見込まれており、安全上の理由から、海上の船と同じように、宇宙飛行士の相互訪問の可能性を早急に確認する必要性があります。
楊宇光:これまで米国とロシアは国際宇宙ステーションの寿命を2030年まで延ばすことに取り組んできました。ロシアとウクライナの間の衝突が続く中、米国とロシアの双方が「分離」の可能性を示唆していますが、運用レベルで「分離」することは非常に困難です。国際宇宙ステーションは、16か国が共同で建設していますが、米国とロシアが最も多いモジュールを保有しています。ロシアのモジュールは設備が完備しており、単独での運用が可能です。米国のモジュールはロシアのモジュールから分離されたとたんに推進力が失われます。米国は早急に新しい推進モジュールを建設しなければ、墜落の危機に瀕するでしょう。
国際宇宙ステーションが引退した後も他の宇宙ステーションが建設されるでしょう。米国をはじめとする宇宙開発大国では、商業宇宙飛行の開発が急速に進んでいます。現在、低軌道の宇宙ステーション技術は成熟しており、ナノラックス社やアクシオムスペース社などの商業宇宙企業による宇宙旅行用の宇宙ステーションの建設が可能になっています。
中新社記者:国連は「全世界が宇宙を共有」を提唱しており、世界は「一人勝ち」の時代でなくなった今、国際宇宙協力はどのように幅と深さを広げ、高度な宇宙協力モデルを模索すべきなのでしょうか。
ジュゼッペ・レイバルディ:人類は古くから星を見上げ、宇宙旅行が実現することを切望してきました。われわれは、世界各地の多くの人の能力を活用する機会を得ています。宇宙探査には、だれでも参加できるのです。世界中の宇宙機関と非政府組織(NGO)には、この目的のために重要なアウトリーチ活動(一般向け成果発表など)を行う道義的義務があります。
高水準の協力モデルについては、「画一的」ではなく、プロジェクトごとに具体的な協力方法があります。この点で国連は、できるだけ多くの国を巻き込むために、中心的な役割を担っています。
楊宇光:現在、宇宙大国間では、二国間および多国間の交流、協力メカニズムを含む、比較的成熟した交流、協力メカニズムが確立されています。今後、国際協力の道は、さらに広がっていくでしょう。また、これまで宇宙探査に深く関わってこなかった国や宇宙産業がまだ育っていない国をどのように巻き込めばいいのでしょうか。これらの国は、宇宙大国と共同で宇宙船を打ち上げたり、宇宙での科学実験に参加したりして、宇宙探査の恩恵を受け、宇宙分野における人類の運命共同体の構築を推進することができます。
世界各国の特に宇宙開発国は、協力のための相互信頼の基盤を強化するために、政治的な干渉を放棄し、交流と理解を促進する必要があります。同時に、二国間および多国間の交流メカニズムを強化し、交流のためのより多くの国際宇宙会議を開催し、より多くの商業宇宙協力を推進する必要があります。(完)
楊宇光氏略歴
中国宇宙科学工業集団有限公司第二アカデミー研究員であり国際宇宙航行連盟(IAF)宇宙輸送委員会副委員長,雑誌『宇宙飛行士』および『宇宙探査』編集委員、中国における宇宙科学普及のためのアンバサダーとして活躍。研究成果では、国家科学技術進歩特別賞1回、省部級科学技術進歩賞2回受賞。主要メディアと協力して750回以上宇宙科学の普及・宣伝活動を行い、宇宙分野の800人以上と長年にわたり国際的な交流を続けている。
ジュゼッペ・レイバルディ氏略歴
ムーンビレッジ協会会長、持続可能な月面活動に関するグローバル専門家グループ(GEGSLA)事務局長、宇宙資源のガバナンスに関するハーグ作業部会事務局長、上級宇宙政策顧問、2013年から国際宇宙航行アカデミー有人飛行部門主任を務める、欧州宇宙機関に35年間(1977〜2012)勤務。著作出版は80冊以上。
【編集:劉歓】