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世界で起こる「人とゾウの衝突」 解決のカギは

近年、生息地の縮小により、野生のゾウが森から人の住むエリアへ侵入し始め、「人とゾウの衝突」が増えている。これは、野生のゾウがいる国にとって問題であるだけでなく、世界が直面している生物多様性保護と経済・社会の発展との衝突の縮図でもある。8月12日「世界ゾウの日」に合わせ、中国国家林業・草原局アジアゾウ研究センターの陳飛(チェン・フェイ)主任と、世界的に有名なゾウ研究家である中国科学院シーサンパンナ熱帯植物園大型獣類多様性・保護研究チームの アインサ・カンポス・アルセイズ研究員に解説をお願いした。 中国新聞社・記者/胡遠航 韓帥南 翻訳/及川佳織 記者:昨年、雲南省で野生のゾウ十数頭が北 上し、その後、南の生息地に戻るという出来事 が世界の注目を集め、多くの人が「人とゾウの 衝突」に関心を持ちました。「人とゾウの衝突」 が起こる原因は何でしょうか。また、どのよ うな影響がありますか。 陳飛:「人とゾウの衝突(Human-Elephant Conflict)」は、主にゾウの生息地の縮小と断片化の結果です。アジアゾウでもアフリカゾウでも、世界のゾウがいる地域ではこの問題が存在し、深刻な結果をもたらしています。 過去100年間、生息地の喪失、象牙の密猟、「人とゾウの衝突」などによって300万から500万頭いると見られていたアフリカゾウは47万から69万頭に、約10万頭いたアジアゾウは4万から5万頭に激減しました。また、人類は深刻な脅威と損失にも直面しており、インドやスリランカでは毎年100人以上がゾウによって死傷し、ケニアでは過去7年間に200人以上が亡くなっています。住民の財産も損害を受けています。小さな農家ではゾウによって1年分の生活費が奪われ、大きな農場では毎年巨額の損失があります。 アインサ・カンポス・アルセイズ(以下、アルセイズ):実は、人とゾウが同じ空の下にいて、同じ土地を共有していれば、気候や環境や文化がどうであっても、衝突を免れることはできません。「人とゾウの衝突」の本質は、人とゾウの資源争奪です。衝突は昔からありましたが、人類が占用する自然資源が増えるのに伴って、人為的要素が優位になってきました。自然の中で生きる環境が失われ、ゾウは直接人と衝突するようになったのです。 2022年7月31日、雲南省普洱市康平鎮で活動するアジアゾウを撮影した。撮影/李嘉嫻 記者:現在、野生のゾウのいる国ではどのような対策を採っていますか。その効果は上がっていますか。 陳飛:近年、アジアゾウ保護の意識が高まり、ゾウが人間を怖れなくなりました。頻繁に保護区を出て農作物を食べ、頭数も増えていることから、問題がより大きくなっています。海外では、ミツバチ、唐辛子、タバコなどの生物学的・物理学的・化学的威嚇剤を使い、ゾウを田畑や居住エリアから遠ざけていますが、多くの場合、こうした刺激的で対抗的な措置は、反対にゾウの攻撃性を高めてしまいます。ある国では、ゾウの好まない作物を植えるという耕作方式に変更して防御しています。同時に、問題を起こしたゾウに対する管理・抑制も重要です。マレーシアでは、深刻な問題を起こしたゾウを毎年別の森に移していますし、ケニアの野生動物保護管理部門は、現地住民と経済作物を守るため、問題のあるゾウを毎年50頭から120頭射殺しています。ネパール、インドネシアでは、移動用の通路を敷設することで、人とゾウが接触する機会を減らしています。総じて言えば、いまのところ「人とゾウの衝突」を完全に回避する方法はありません。 アルセイズ:地域環境や文化の影響によって、ゾウの行動にも違いがあり、これがゾウと人の関係を複雑にしています。例えば中国は人が多くゾウが少ないので、ゾウの生息地は断片化しており、その周囲はほとんどが人の使用する土地なので、人とゾウが遭遇しやすいのです。マレーシアは人が少なくゾウが多く、広大な土地がシュロの栽培に使われているので、ゾウの活動でシュロは破壊されますが、人と遭遇する可能性は低いのです。スリランカは人が多くゾウも多いので、衝突の可能性はかなり高いと言えます。現地の人はゾウを大切にしていますが、衝突が増えると、ゾウを狩る形で、被害を避けるしかありません。「人とゾウの衝突」の実態を語るときには、人の要因、ゾウの要因、環境の要因を考慮する必要があります。 雲南省普洱市康平鎮にある約167ha のアジアゾウ食料基地の空撮。ドローン撮影/李嘉嫻  現在世界的には、射殺によって衝突に対処するという過激な方法を採っているところもありますし、ゾウを驚かせて離れさせるという、さほど過激でない方式を採っているところもありますが、ゾウは人間が実質的な脅威を与えているのではないと気づくと、また戻ってきてしまいます。ある地域では、衝突のあった場所からゾウを別の場所に移していますが、通常、アジアゾウは元の生息地に戻ってきます。また、電気柵を発明して広く使用している地域もあり、これは効果を上げています。私たちには、根本的にゾウとの衝突をなくす方法はなく、受け入れられる程度にまで衝突を減らすことしかできません。 雲南省普洱市康平鎮に作られたゾウ監視塔。撮影/李嘉嫻 記者:昨年、雲南省のゾウが北上して世界の注目を集めましたが、多くの努力によってゾウは無事に戻りました。この事例から、どのような教訓が得られましたか。 陳飛:この成功例によって、人々のゾウに対する容認度が高まったことと同時に、食べ物による誘導や電気柵といったソフトな介入が衝突を減らすのに有効だということが分かりました。しかし大量の人員と物資、資金が投入されたことは間違いなく、長期的にできるものではありません。「人とゾウの衝突」を緩和する根本的方法は、ゾウのために適切な生息地を確立することです。面積、森林の質などの必要条件のほかに、ゾウが必要とする大量の食べ物と活動の範囲を考え、生息地の改造や建設を行い、緑の通路などで生息地をつなぐことが必要です。中国は国立公園の建設により、アジアゾウの生息地回復を模索しているところです。 雲南省シーサンパンナ国家級自然保護区管護局のスタッフがスマホアプリでアジアゾウの監視・警報システムの画面を見せてくれた。撮影/李嘉嫻 アルセイズ:「人とゾウの衝突」は漠然とした問題ではなく、具体的な問題です。雲南省のゾウの北上では、少なくとも3つの有益な経験が得られました。第1に、人々のゾウへの態度が「人とゾウの衝突」問題解決にとって非常に重要なことです。中国では政府も国民も、積極的にゾウを保護しており、これが今回の突発的事件解決のベースになっていました。第2に、より動的な見方でゾウ保護の問題に対処することです。アジアゾウの数は常に変化しており、群れの数が増えれば、ゾウは保護区に留まらず、出て行くでしょう。第3に、ゾウの群れは大きな範囲で移動し、都市部に近づいて、人の生活に問題を起こすことです。雲南省の事例では、被害に対する補償、事前警報、各部門の協力などでよい対応が実現できました。これらは、今後この問題を処理するための参考になります。 記者:世界の国立公園と比較して、中国が計画しているアジアゾウ国立公園はどのような違いがありますか。「人とゾウの衝突」解決に対して根本的な変化がありますか。 陳飛:中国の国立公園には、はっきりとした特色があります。  まず、より保護を重視しています。中国は国立公園を最も重要な自然保護区域に位置づけ、厳格・科学的で規範に沿った管理をおこない、本来の完全な生態系を保護することを重視しています。  次に、生態系建設を強化しています。中国政府は行政管理能力が高く、集団の意思を統一して実施できるという優位性を持っているため、エコロジーな文化を建設するという立場から、国立公園を主とした自然保護エリアを体系的に建設し、効果的・長期的メカニズムを構築できます。  さらに、生態環境保護とコミュニティ発展の融合を強調しています。アメリカ、カナダ、オーストラリアなどでは国立公園を建設する際、広大な荒野や人のいないエリアがあり、公園内の人口が少なく、コミュニティとの矛盾は多くありません。中国は人口が多く、公園内に住んでいる住民の一部を行政の指導で集住させますが、より多くは公園内の不規則な自然村に分布し、遊牧民の冬の住居や夏の牧場の一時的なテントなどもあり、「広範囲に分散し、集中の度合いは小さい」という特徴があります。これに対して、国立公園建設と保護においてはコミュニティや生活をより重視し、科学的な計画、合理的な区分けにより、個別の政策と管理を実施して、住民をパートナーと考え、「美しい生態、豊かな住民」を実現します。  現在計画中のアジアゾウ国立公園は、こうした特徴のほか、アジアゾウ保護について新しい方法を実現します。アジアゾウが集中している一部の農地を残し、作付けをして食料を補償します。ゾウの食物を供給し、群れを引きつけて森へ返し、生息を安定させて「人とゾウの衝突」を回避し、共存を実現します。  現在、人間の住むエリアへのゾウの侵入はこれまでにない規模になっており、従来の動物管理手法は限界を迎えています。「人とゾウの衝突」をどう解決するかは、人と動物の共存に関わるだけでなく、人類の智慧と勇気が試されているのです。喜ばしいことに、対処方法が行き詰まりを脱して徐々に多様化し、短期的対応から持続可能な発展へと考えが変わっています。人類が発展し、かつ野生動物の発展に対応するためには、こういう考えが必要なのです。総合的な保護理念を持ったアジアゾウ国立公園ができれば、地域の「人とゾウの衝突」に根本的な変化をもたらしうると信じます。 アルセイズ:アジアゾウ国立公園建設の目的は、まず熱帯雨林の保護、次にアジアゾウの保護です。従来の自然保護区と比べ、この公園は、より人為的要素に関わります。多くの資源を統合し、管理も体系的なものになるでしょう。アメリカにできた世界初の国立公園 は、大部分に人が住んでおらず、公園内での人の活動は限定的でした。アジアゾウ国立公園は全く新しい方式を採用します。「人とゾウの衝突」、さらには人と自然との関係について、多くの経験を蓄積できるでしょう。 【写真キャプション】 陳飛:国家林業・草原局アジアゾウ研究センター主任。主にアジアゾウとその生息地、生物多様性の研究に携わる。 アルセイズ:アインサ・カンポス・アルセイズ(Ahimsa Campos-Arceiz、中国名・康牧颯)。スペイン国籍、中国科学院シーサンパンナ熱帯植物園研究員。主にアジアの大型動物の生態と保護、種子散布、人類と野生動物の衝突、学際的保護科学および保護能力建設などの研究に携わる。