謎を愛するイタリアの巨匠―デ・キリコの大回顧展 東京都美術館で開催中
20世紀美術を代表する巨匠の一人、ジョルジョ・デ・キリコは、1888年にイタリア人の両親のもとギリシャで生まれ、1978年の90歳で生涯を閉じるまで、およそ70年にわたる画業を残した。その謎めいた作品は、「不思議」「分からないもの」と言われつつ、時代を超えて多くの人々を魅了している。
このたび、ローマのジョルジョ・エ・イーザ・デ・キリコ財団の全面的協力により、大阪中の島美術館、ニューヨーク近代美術館をはじめ、国内外から約100点の優品が東京都美術館に集結する。デ・キリコの画業を「イタリア広場」「形而上的室内」「マヌカン」(図1, 2)などのテーマに分け、初期から晩年までの作品を余すところなく紹介し、さらに彼が手掛けた彫刻や舞台美術も展示する。デ・キリコ芸術の全体像に迫り、巨匠の作品が持つ力強さや、唯一無二の表現力を堪能できる過去最大の回顧展となるに間違いない。
デ・キリコといえば、1910年頃から描き始めた「形而上絵画」を頭に思い浮かべることが多いだろう。簡潔明瞭な構成で広場(図3)や室内(図4)を描きながらも、歪んだ遠近法や脈絡のないモティーフの配置(図5)、幻想的な雰囲気(図6)によって、日常の奥に潜む非日常を表した作品群に、デ・キリコ自ら「形而上絵画」と名付けた。彼の代名詞ともいえる「形而上絵画」は、数多くの芸術家や国際的な芸術運動に大きな影響を与え、シュルレアリスムやポップアートなどはもちろん、現代の最新のデジタルアートの表現にまでその影響をみることができる。
1919年以降、デ・キリコは伝統的な絵画へ興味を抱くようになり、古典的な主題や技法を用いた作品(図7)を手がけるようになった。一方で、過去に描いた「形而上絵画」の再制作や、「新形而上絵画」(図8)と呼ばれる新たな作品も生み出している。こうした過去作の再制作や引用は、ときに「贋作」として非難されたこともあるが、ポップアートの旗手アンディ・ウォーホルは、複製や反復という概念を創作に取り入れたデ・キリコをポップアートの先駆けと見なして高く評価した(図9)。
デ・キリコは幾度となく転居を繰り返して、創作活動をパリ、ニューヨークなでも行っていたが、1947年60歳の時にローマに戻り、スペイン広場の近くに住居兼アトリエを構えた。最期まで、弟や最愛の妻といった自身の芸術の理解者が身近に支えられながら、世間の評価に左右されることなく、己の才能を信じて精力的に創作を続け、絵画のみに留まらず、彫刻、挿絵、舞台美術(図10、撮影:山本倫子)など幅広く、数多くの作品を残した。
■本展概要
デ・キリコ展 Giorgio de Chirico: Metaphysical Journey
2024年4月27日(土)~8月29日(木)東京都美術館
休室日:月曜日 ※ただし、8月12日(月・休)は開室
開室時間:9:30~17:30、金曜日は20:00まで(入室は閉室の30分前まで)
主催:公益財団法人東京都歴史文化財団 東京都美術館、朝日新聞社
公式サイト:https://dechirico.exhibit.jp/
公式X:https://twitter.com/dechirico2024
公式Instagram:https://www.instagram.com/dechirico_japan/
※本展は東京展終了後、9月14日(土)~12月8日(日)までの会期で神戸市立博物館にて開催される予定。