中国が打ち出した「新しいインフラ整備」―何が背景で何を狙っているのか
中国共産党の中央財経委員会は4月26日、インフラ整備の強化の方針を正式決定した。インフラ整備の強化を「内需拡大」に結びつけることが強調されたことが大きな特徴だ。それ以外に、インフラ整備を経済の「国内国外のダブル循環」と「質の高い発展」に結びつけることも強調された。 ■中長期的国内外の情勢を念頭に、強い目的意識をもって判断 中国では、コロナウイルス感染症が増加したために3月末から上海市で人の移動の極めて厳しく制限するなど、各地で厳しい対応が続いている。感染症対策は経済にとって逆風になる。そのためか、中国国外ではインフラ整備の強化はコロナ対策の一環と理解された場合が多い。 しかし、「インフラ整備」の主たる目的がコロナ対策と理解することは不自然だ。その理由とは、中国当局によるかねてからの「内需拡大」の位置づけだ。 経済成長を実現させる三本柱は「輸出」、「投資」、」内需」とされる。そして中国政府は2010年代から、「内需の拡大」を特に強調してきた。また、米国のトランプ前政権とバイデン現政権による「中国締め出し」で、中国が経済を成長させるために輸出に過度に頼ったのではリスクが大きいことが、改めて鮮明に示された。 つまり、中国にとって内需拡大の重視は、長期的視野に基づく成長モデルの転換の一環であり続けてきた。新型コロナウィルス感染症が発生しているからには「さまざまな手を先に先に打つ」ことは当然考えられるだろうが、インフラ整備が単純なコロナ対策として位置付けられているとは考えにくい。 ■方向性を見定めた上でインフラ整備に注力 インフラ整備の強化について言及があった「国内国外のダブル循環」とは、20年5月に公式に表明された経済政策の大方針だ。まずは、「中国は市場規模が極めて大きく、今後も内需拡大の余地は大きい」と認識する。その内需がけん引する国内の経済循環を活性化し、その上で国内での経済循環を国際的な循環を接合させる方策だ。 つまり「国内国外のダブル循環」も内需拡大に直接関係している。これらのさまざまな施策を通じて実現を目指す、より健全な経済成長や社会の改善を一言で表現すれば「質の高い発展」ということになる。 インフラ整備に注力する上で、つねに問題になるのは財源だ。中央財経委員会はインフラ整備の強化について「大盤振る舞いはしない」と明言した。つまり効果がはっきりと期待できる分野や方向性に絞って、投資を進めるとの考えだ。 中国の最近の政策としては、貧困撲滅運動の際に「精準(ジンジュン、=極めて精確に)」という言葉が繰り返し使われた。すなわち資力や人力最も効率よく「ピンポイント」に近い方法で投入するということだ。インフラ建設についても同様に、「効果」を重視して長期に渡りきめ細かい取り組みを進めていくことになるはずだ。 ■共産党中央が示したインフラ整備の具体的分野とは 中央財経委員会は、インフラ整備で力を入れる分野について交通、エネルギー、水利などのネットワーク型インフラ建設を強化により、効率を高める努力をすべきと表明した。エネルギーについては分散型スマートグリッドの開発やグリーン・低炭素エネルギー拠点の構築、石油・ガスパイプラインネットワークの整備を加速させる。 人口1人当たりの降水量が少ない中国では、水資源利用の効率化が極めて重要だ。一方で、大陸国である関係で、河川の上流部分が増水あるいは氾濫すれば、影響は下流の極めて広い範囲に及ぶ。そのため、そのため、重要な水源、灌漑地域、洪水防止のための貯水地域の建設と近代化が促進されることになった。 もちろん、情報・技術・物流などの産業高度化のためのインフラ建設も強化される。さらに具体的には新世代のスーパーコンピューティング、クラウドコンピューティング、人工知能プラットフォーム、ブロードバンドインフラネットワークなどを配置や構築だ。 それ以外にも、都市インフラの建設を強化して、快適で安全な生活を確保する。スマート道路、スマート電源、スマート公共交通などのインテリジェント・インフラの建設も強化される。農村部の水利や交通も整備され、都市と農村のコールドチェーン物流施設の建設も加速する国家安全保障基盤の構築を強化し、極限状況への対応力強化も強化される。 中国では長年にわたりインフラ整備が進められており、大きな成果が達成されてきた。しかし、国土が広く人口も大きいだけに、いまだに「満足してよい状態」とまでは言えないのが現実だ。特に農村部でのインフラ整備では、まだやらねばならないことが多いとされる。また、最近になって重視されるようになった「デジタル化の推進」などについては、従来はなかった種類のインフラが多く必要となる。 インフラ整備には多くの企業が参画することになる。企業にとってはビジネスチャンスだ。中国でインフラ整備が加速されれば、日系企業にも恩恵がもたらされる可能性が出て来る。 中国各地では、地域の実情に沿う方向でインフラ整備が推進されることになる。中国でビジネスを展開するならば、それぞれの地方で求められている商品やサービスをいち早く察知して提供することが、極めて重要だ。 ■中国経済が、日本にも大きな影響 ここで、日本の「足元の状況」を見ると、中国での新型コロナ流行の影響を受けていることは事実だ。帝国データバンクが5月17日付で発表した日本企業に対するアンケート調査の結果によると、中国におけるロックダウンによって企業活動に「すでにマイナスの影響がある」あるいは「今後、マイナスの影響が出る見込み」と回答した企業が計48.8%だった。 日本で特に注目されているのは、上海でのロックダウンだが、それ以外の都市でもロックダウンが実施されている。例えば中国に製造拠点を置く日本の企業の場合、自社に直接関係する工場の所在地がロックダウンの対象にならなくても、中国各地で実施されるロックダウンの影響でサプライチェーンが寸断され、通常の操業が出来なくなる場合もある。 日本にとって、中国経済が順調に推移することは、極めて重要だ。コロナの影響であれ、それ以外の要因によるものであれ、中国経済が混乱すれば日本経済は大きな“打撃”を被ることになる。であるからには、中国が経済分野の困難をいかに乗り越えるかは、日本経済にとって、さらには世界経済にとって決して「対岸の出来事」ではない。(構成 / 如月隼人) 筆者プロフィール:如月隼人。東京都生まれ。東京大学教養学部基礎科学科卒。1987年から91年にかけて北京に留学。帰国後は編集記者として活動。扱う内容は主に中国や中華圏の政治経済や社会情勢、科学技術など。歴史や文化、伝統芸術についても多く執筆してきた。