増える極端気象、地球の「発熱」は抑えられるか
―― 国家気候センター・巣清塵主任インタビュー 今年の3月、熱波がインドとパキスタンを襲った。6月以降、アメリカでは高温が続き、9000万人に警報が出された。7月にヨーロッパ各地で気温が史上最高を記録し、ポルトガルでは一時47度に達した。中国では河川の増水期に南部各地で降水量が新記録を作り、北部では熱波で気温が40度以上になった。地球はどうなってしまったのか。なぜ世界で、これまでの観測値を超える豪雨や強風、 過酷な高温など局地的に大きな被害をもたらす極端気象が増え続けるのか。この問題について、国家気候センターの巣清塵(チャオ・チンチェン)主任に話を聞いた。 中国新聞社・記者/陳溯 翻訳/及川佳織 記者:今年、増水期になって南部を大雨が襲い、洪水被害が深刻です。最近になって、北部でも大雨が増え始めました。また、夏に広範囲で気温の高い日が続き、最高記録を作っています。こうした極端気象の原因は何ですか。近年、中国では極端気象が増えているのでしょうか。 巣清塵:中国の広い地域で6月以降、暖かい高気圧のために下降気流が発生し、雲が少なく晴れた日が増え、太陽が照りつけて気温が高い状態が続いています。また地球温暖化により、平均気温が上がっているため、気温の高い日が頻繁に発生しています。地球温暖化は大気環流、海洋や地表の状態を変え、間接的に世界の気温上昇に影響しています。 総じて言えば、今年の天気は異常です。華南の1回目の増水期は例年より16日早まって期間が長く、累計降水量も多く、雨の降り方も極端でした。福建省・広東省・広西チワン族自治区・海南省にある国立気象観測所の多くで、1日の降水量がその月の最高記録を突破しました。3月1日から7月31日の間、珠江流域では例年より86・4mmも多く雨が降ったのです。 記者:世界的にも今年の夏の北半球では極端な高温が多発しています。ヨーロッパやアメリカ西部は猛暑に見舞われ、一部では新記録を創りました。世界で極端気象が多発する原因は何ですか。気候の変化には、どのような特徴がありますか。 巣清塵:北半球の猛暑の多発の背景にあるのは地球温暖化ですが、6月以降の気温上昇の直接的原因は大気環流の異常です。 近年の極端気象の増加と温暖化には、密接な関係があります。温暖化によって世界の海と大気環流の状況が変わり、海と大気、陸と大気の相互作用が、局地的な気候にさらに影響を与えます。地球温暖化は気象システムの不安定性を加速させ、極端気象を発生させています。 地球温暖化によって極端気象や激甚化した気象が発生する確率や、その程度が高まっています。陸と海の極端な高温、大雨、干ばつと火災などが社会、生産、生活を破壊し、死傷者を出し、財産の損失を招いています。 2020年8月、カリフォルニア州サンフランシスコ・ベイエリアで山火事が多発。22件の火災で少なくとも4000ヘクタールが焼け、2万2000人以上が避難した。写真は、消火に当たる消防士が仲間とトランシーバーで話す様子。撮影/劉関関 記者:気候変動に対応するために、主な課題となるのは何ですか。人類はどのようにして気候変動に対応すべきですか。中国の関係各方面はどのような努力をしていますか。 巣清塵:気候変動への対応策を国レベルの計画に落とし込むには、まだ問題があります。国によって発展段階や状況が違い、直面する脅威も異なります。世界的な行動、政策、計画をそれぞれの国で実施するのは簡単ではありません。また、途上国が気候変動に対応するには多くの資金、技術、政策支援が必要です。「パリ協定」や「グラスゴー気候合意」 が結ばれ、この面では一定の進歩があったのですが、実際のニーズとはまだ差があります。 2022年4月、杭州西駅屋上の太陽光発電設備の空撮。杭州西駅の太陽光発電設備は1万5000m²、完成後の予想年平均発電量は 231万 kWh で、年に標準炭換算で830トン余りを節約し、二酸化炭素排出を2300トン余り削減できる。撮影/王剛 気候変動の二大対応策は軽減と適応で、両者を組み合わせることが必要で、どちらも欠かせません。軽減はエネルギー、工業、交通などの経済システムと生態系の長期にわたる調整によって、温室効果ガス排出を削減することです。適応はすでに発生した、または今後発生が予想される気候変動に対し、自然のシステムと人類のシステムとを調整して、気候変動が社会・経済の発展と生態系に与える悪影響を減らし、気候変動による、ある種のチャンスを十分に利用することです。 現在、世界は軽減を重視し、適応を軽視する傾向にあります。中国は一貫して軽減と適応の両方を重視し、気候変動に積極的に対応する国家戦略を採用しています。軽減については、「双炭〔カーボンピークアウトとカーボンニュートラル〕」を掲げ、産業構造とエネルギー構造の最適化により、二酸化炭素排出削減で大きな成果を上げています。2020年、中国の二酸化炭素排出は2015年から18・ 8%、2005年から48・4%減りました。世界に約束した40~45%減という目標以上の数値を達成したのです。エコロジーな低炭素型発展を推進し、新エネルギー車の生産・販売が世界トップになり、風力・太陽光発電設備の製造では世界一完備された産業チェーンを形成しています。適応については、今年6月、「国家気候変動適応戦略2035」を公布しました。これは気候変動適応政策に関して、世界の手本となる重要文書です。 【プロフィール】 巣清塵(チャオ・チンチェン) 国家気候センター主任、党委員会書記、研究員、理学博士。グローバル気候観測システム(GCOS)研究チーム共同主席、指導委員会委員。中国気象学会気候変動・低炭素経済委員会主任委員、中国気象学会気象経済委員会副主任など。研究分野は、気象システム分析と相互作用、気象リスク管理および気候変動政策。国家科学技術部重点研究計画、科技支援計画、中国クリーン発展基金、国と地方の発展・改革委員会、中国気象局、国際協力などのプロジェクト10件以上を主宰している。