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東西貿易を切り開いた中国の帆船

――上海中国航海博物館 副研究館員・葉衝氏インタビュー 中国は世界で最も古い造船の歴史を持つ国の1つである。広大な国土を有する古代中国はなぜ帆船建造に精通していたのだろうか。先進的な造船技術はどのようにして中国の海洋文明を支え、人類の「グローバル化」のプロセスを牽引してきたのだろうか。中国初の国家級航海博物館である、上海中国航海博物館・副研究館員の葉衝(イエ・チョン)氏にお話をうかがった。 文/樊中華 写真編集/張興竜 翻訳/及川佳織 記者:中国の伝統的な木造帆船は何種類ありますか。西洋のものと比較して、どんな特徴がありますか。 葉衝:中国は広く、水系が豊かな上、長い歴史において様々な帆船が発達したため、具体的な数の統計は困難です。19世紀前半から20世紀半ばに かけて、外国人や機関が沿海部と長江流域でおこなった調査によると、帆船の種類は一千種以上でした。しかし、これはすべてを網羅しておらず、しかも調査時にはすでに伝統的な帆船の最盛期は過ぎていました。  中国式帆船の特徴は第1に、設計と建造に独創性があることです。西洋の帆船はフレーム構造ですが、中国式は独特の横隔壁構造で、設計の発想がまったく違います。  第2に、中国の帆船は柔軟性と実用性が高いことです。まず、中国帆船の横隔壁構造と水密隔壁は、船の構造上の強度と沈没防止性能を大きく高め、人と貨物の空間を分け、船体の形状線確定と、その後の建造をしやすくします。設計や建造は図面に頼る必要がなく、ポイントとなる横隔壁と主要部品間の長さの比率関係によって、段階的に計算して建造できます。次に、職人は経済力、積載貨物量、航行する水域といった船主のニーズに合わせて水密船倉の配置や数を自由に調整できるので、「一艘一設計」と言えます。さらに職人は、造船する土地の木材の条件によって、船の各部に合わせて使い分けることができます。このほか、西洋の帆船には前後を貫通する甲板が何層もありますが、中国の帆船は通常、主甲板だけで、そのほかに取り外し可能な平甲板を設置します。危険に遭遇したら、平甲板を外して救命道具にするのです。  中国式帆船の第3の大きな特徴は帆装です。西洋式の「軟帆」に対し、中国のものは「硬帆」「活帆」と呼ばれ、縦横の経脈のように、帆布に横桟(バッテン )を配置し、帆の周囲と内部に縄を縫い込んで帆筋とします。こうすることで帆が風を受けるエリアが増えて効率が高まり、穴がたくさん開いても使うことができます。西洋の帆は1つ穴が開けばすべてダメになってしまいます。  「活帆」の「活」とは、融通が利くことです。第1にマストを中心に八方から風を受け、ジグザグに船を走らせ(つまり、方向を調整して)、風向きが悪いときにも航行できます。これに対し西洋の帆船は逆風では操縦しにくいため、長い間、オールを併用していました。第2に、中国式の帆はそれ自身の重さですばやく取り込むことができ、西洋式より早くて便利です。海上で暴風を受けたときに帆を下ろすのが間に合わずに重大な事故に遭うことがなく、操縦者も少なくてすみます。 記者:中国は土地が広く、古代から農耕文明主体と考えられていました。なぜこのように先進的な造船技術を持つようになったのでしょう。 葉衝:春秋時代から、水上戦が戦闘用船舶の発展を促しました。戦闘用船舶の持つ突撃、遮蔽、輸送など細分化された機能により、船の種類は豊富になり、それが民間の船の基礎となりました。三国時代、呉政権は海路を使って東南アジアや朝鮮半島に進出し、台湾諸島を探索しました。木造帆船は大型化し、呉の船は長さ48mに達し、人は600~800人、貨物は500~700t載せることができました。東晋では水密隔壁技術が船の安全性を飛躍的に高め、唐では1000t積載できる大型船ができました。当時の外国商人には安全で快適な中国帆船に乗ることが人気であり、大型・多様・安全という優位性により、中国帆船は海洋航海で主導的地位を占めていたことが分かります。 記者:現在、造船の材料と動力システムは木造帆船とまったく違いますが、中国の帆船の技術はいまでも価値がありますか。 葉衝:もちろんあります。まず、中国式帆装はウォータースポーツにますます応用されるようになっています。西洋の船員や学者は中国帆装の長所を 項目余りにまとめています。イギリス中国式帆装協会は2019年に、世界の30の国と地域の船員や帆船愛好者が近代船や西洋船に中国式帆装を取り付けているとの統計を発表しました。  次に、将来の造船はますますスマート化や環境保護を追求するようになっており、新しい帆装の設計には風力が補助動力として利用されるでしょう。外観、材料、設計原理などは大きく変わりますが、「八方から風を受ける」という発想は、伝統的技術と切り離せません。  また、水密隔壁など船舶の安全に関わる設計技術は、現在でも世界の船舶にとって沈没を予防する重要な技術です。「海上における人命の安全のための国際条約」は、すべての船が安全基準に達した水密隔壁を備えるよう強く求めています。  このほか、遅くとも漢代には船尾舵が現れ、軸舵、昇降舵、釣合舵、穴あき舵などさまざまなタイプが生まれました。 世紀初め頃、西洋では方向の制御はオールに頼っており、技術の差によって航海の能力と範囲が大きく制限されていました。 世紀以降、西洋の船にやっと船尾舵がつき、改良を重ねて、いまではすべての遠洋航海船で使われています。 【プロフィール】 葉衝(イエ・チョン) 1983年生まれ、安徽省廬江出身。中国航海博物館副研究館員、収蔵品修復部副主任、船舶モデル研究センター主管。中国航海シンクタンク特約研究員、中国造船工程学会船史研究学術委員会高級会員。主な研究分野は船舶史、航海史、船舶モデル研究。「鄭和、西洋へ」、「中国航海史基礎資料考古学編」、『船舶モデル評価基準』、『中国木造帆船モデル製作・考証ガイドライン』などの課題と標準の研究に参加。